トキノココンビの初めて

七戸寧子 / 栗饅頭

プロローグ

 よく晴れた星の綺麗な夜。

 月明かりの照らすジャパリパークにはひとつの歌声が響いていた。

 お世辞にも美しいとは言えない音色だが、そこには楽しそうに歌う少女の姿があった。


 その少女の名は「トキ」。


 歌うことが好きだが、同時に理解不能なくらいの音痴である。そのため、彼女が歌っていると嫌そうな顔をして遠ざかってしまう。


 しかし、この日はすぐそばにもう一人分の影があった。


 青緑の髪にフードをかぶったの下駄の少女。

 彼女の名は「ツチノコ」。


 彼女は、トキの音痴な歌を聴いても嫌な顔ひとつせず、むしろ感動しているような表情でその歌に耳を傾けていた。


 いや、音痴だと感じなかった、と考える方が自然だろうか。彼女は、今まで地下に篭もりっぱなしで生活しており、初めて地上に出て初めて聴いた「歌」と呼ばれる物がこれだったのだ。それでは当然この歌が音痴だなんて感じるはずもあるまい。


 ひと通り歌を歌ったトキは尋ねた。


「いかがでした?」


 それに対し、ツチノコは答える。


「いい歌だったな。個性は大事だ」


「えええ本当?」


 トキは嬉しかった。ここまで純粋に褒められたのは初めてだった。


 ツチノコはそれを無表情に眺めていたが、内心彼女も嬉しい気持ちがあった。今まで他人とほとんど接して来なかった彼女には、自分の言葉に喜んでもらうという経験は初めてであった。


「ベストフレンド」


「うわっ、なんだこいつは・・・・・・・・・」


 ぎゅっと抱きつくトキ。抱きつかれるツチノコ。


 初めて自分の歌を理解してくれる人。


 初めて地上に出て親しくしてくれた人。



 これは、二人の日常の「初めて」を綴った物語である。

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