甘え上手なあなたはこれから財布が寒くな~れ♪

ちびまるフォイ

深夜1時にお読みください

「悪い、この仕事頼めるかな?」

「はい、わかりました」


「この後、友達と飲み会なんですぅ~~」

「やっておきます」


「こういう細けぇ仕事は苦手なんだ。やってくれ」

「承知しました」


誰もいなくなったオフィスで深夜1時。


「はぁ……なにやってるんだろ」


自分の仕事はとうに終わったというのに、

差し込まれる他人の仕事でどんどん残業が増えていく。

残業代が出るほどのいい会社でもない。


真っ暗のなか家に帰り、3時間ほど寝ると再び出勤。

地獄のような日々が続いていた。


『日本の労働時間の問題に対し政府が新しい法律を決めました。

 今後、誰かに甘える人はお金を払い

 頼られる人がお金を受け取るようになります。逆らえば死刑』


朝食をとりながら見ていたニュースで神の啓示が示された。


「おお! これさえやってくれれば、もう頼られない!!」


ウキウキしながら会社に向かうと、

待っていたのはほかの社員の上目遣いとお金だった。


「実は今日は飲み会あるから早く帰りてぇんだ、仕事頼むよ。

 ほら、甘え金もやるから」


「はぁ……」



「ごめんなさーーい、私の入力ミスがあったんですぅ。修正お願いします」


「……ええ」



気が付けば深夜1時。

昨日とまったく同じ状況に自分でも驚いていた。


「あれ……法律施行されてるんだよな……?」


甘え金を支払う必要が出るとなれば、

自分でなんとかしてくれるかと淡い期待を持っていたがそんなことはなかった。


お金を払ってでも、仕事はしたくない。


「お金は増えるけどさ……」


デスクに積まれているお金を見ても「頑張ろう」と思えない。

今はお金よりも時間と休息が欲しい。

お金で時間が変えればいいのに。


「って、ダメだダメだ!! こんなんじゃお金を持ったまま過労死する!

 明日は甘えよう! 頼られるばっかりだからダメなんだ!!」


翌日、なんでもかんでも頼られる自分を変えるべく

お金を持って別の人に仕事を流した。


「相場の2倍以上の甘え金を払うから仕事してくれない?

 ここの人数を入力する仕事なんだけど……」


「え、マジっすか!? やるっす!!」


案外すんなりとことは運んだ。

お金だけはあるので甘え金も大量に払うことができる。


「ふぅ、これで積まれていた仕事は片付いたぞ。今日は早く帰れそうだ」


「ちょっといいかな?」


「え?」


先輩にちょいちょいと呼び出された。


「俺に回って来た仕事なんだけど、頼めるかい?

 人数を入力する仕事なんだけど……」


「うそぉ!?」


まさかのブーメランカムバック。

別の人に振った自分の仕事が、多くのたらい回しを経て自分に戻って来た。


「やってくれるよね」


「……はい」


断ったところで、別の人がかわるがわる俺に頼りに来るだけだ。

結論が変わらないのなら先に承諾して仕事を進めたほうがまだいい。


「なにやってんだろうな……」


深夜1時。

デスクに積まれた甘え金を見ながらため息が漏れた。


「誰かに頼ってもダメ。仕事を断っても別の人が頼みに来る。

 これじゃいつまで経っても楽にならないよ……」


ふと、パソコンから顔を上げると創業者の肖像が飾られていた。

頭の中でぴんとアイデアが浮かんできた。


「そうだよ! これだ!! この方法があった!!

 偉くなっちゃえばいいんだよ! 偉くなれば誰も甘えてこない!!」


はじめて仕事にモチベーションという言葉が宿った瞬間だった。

それからというもの仕事をバリバリこなして、

今まで興味もなかった「出世」を意識しまくった。


そして、ついに……。


「おめでとうございます、あなたが社長です」


「やったーー!!!」


「社長になった記念に今後の会社をどうするかスピーチお願いしいます」


これまでの仕事ぶりが評価されて社長となった。

これでもう自分に甘えてくる人はいないだろう。


「えーー、私が社長になったからには会社を大きく変えます。

 最新の機器を導入し、仕事の徹底的な効率化をします!

 そして、人材をたくさん増やして誰か1人に頼るような風土を消します!」


第二の自分を作らないためにも、しっかり環境を作った。

なにぜこっちは甘え金貯金があるから軍資金には困らない。


完全に環境は整備された。


「長かった……本当にここまで長かった……これで解放される……」


「社長」


「なにかな秘書くん」




「社長のハンコが必要な書類が2000枚、

 社長同席が必須の会議が300件、

 社員からの社長への要望が500種

 すべて甘え金とともに届きましたよ」

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