第23話

 ヤバい…止められない…

 こいつ足も速いのかよ。なんか腹立ってきた。

 ひとつ意外なことがあった。

 洋介の気が弱いことは間違いないだろう。だがサッカーでは人が変わったようにアグレッシブだった。

 ボールを持った選手へのタックルは少し荒い。体をぶつけられて初めて知ったが、俺と同じで線の細い体格なのに体重の乗ったいいプレスをかけてくる。気を抜けば力負けしてしまう。


 なにより驚くべきはフェイントの数だ。所謂足技と言われる足元だけでやるフェイントだけでもかなりの種類があるのに、それに加えてボディフェイントやスピードの緩急も混ぜて来るため間合いが計りにくい。

 ただし彼はパスを滅多に出さない。仲間を信用してないのだろう。攻撃から守備まで全て自分でやろうとしている。これでは後半になる前に体力は尽きるだろう。

 それにドリブルでくるとわかっている相手に対応するのは難しいことではない。それでも、サッカー未経験者にとって彼を止めることは不可能に等しい。


 俺がディフェンスをすればゴールを入れられることはほぼなくなる。しかしこちらもゴールを奪う確率はぐっと下がるだろう。


 こちらのフォワードは小さいが足は速いので裏を狙ってみているが得点の気配はない。


 洋介のドリブルのキレは落ち始めている。それでもディフェンスをサボることはなくこちらの攻撃はことごとく止めている。


 流石フットサル経験者だ。


 フットサルは5対5で行うサッカーの縮小版のようなものだ。室内で行うことが多くサッカーのスパイクではなくフットサルシューズというものを使う。学校で買う体育館シューズのようなものだ。

 キュッキュッと止まるためスピードの緩急もサッカーよりも格段に増す。よりテクニカルなフェイントも可能となり、攻撃も守備も個と個の力の差が大きな問題となる。


 フットサルはキーパーを含めて1チーム5人。


 ディフェンスをサボることは失点に直結することは言うまでもない。更にコートは狭く攻守の切替が次々に繰り返されていく。その展開の早さは観ている分には面白いのだが実際にやってみると吐くほどキツかった。



 ディフェンスの大切さを知る生粋のドリブラー


 ・・・絶対ほしい!


 まさに今最も必要な存在だ。


 1点ビハインド。膠着状態。このままじゃ負ける。

 

 でもこの勝負、負けられない!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る