第20話

 月曜日というのはいくつになっても好きになれない。月曜まで休みならばいいのに…

 そうすると月曜のことは好きになるけど火曜が嫌われ役になってしまうなぁ。もしかしたら月曜は自分から嫌われ役を進み出たのかもしれない…俺は月曜のことを勘違いしてたのか…すまんなマンデイ。

 などとどうしようもないことを考えながら下駄箱に到着するとなんだかいつもより視線を感じた。気のせいかな…嫌な感じだ…


 教室に入ってからも違和感は続く。

 ヒソヒソとこちらを見て女子が何かを話している。

 え…まさかこれがいじめってやつか…俺なんかしたっけ?いじめってほんとに突然なんだな…ど、どうしよう…とりあえず便所飯か?いや、まだ早いか。いじめってどうしたらいいの?いや、待てよ…これで学校休む大義名分ができたんじゃないか?でも部活は出たいな…どうすっかなぁ…

「よう!人気者!すごいなお前、大人気だな。ファンクラブでもできるんじゃねえの?」

 教室の外からお調子者の牛嶋が声をかけてきた。

 チャンスだと思い急いで教室を出た。

「やばいよ俺いじめられ始めたかも。」

「は?人気者が何言ってんだ?」

 何言ってんだこいつ?人気者って誰が?俺が?

 …いや、意味わからんでしょ。

「何言ってんのお前?俺は困ってんだよ。便所飯ってどうすればいんだよ。」

「おちつけ。」

 頭をはたかれた。イッテーなこの野郎。

 キッと睨むと待て待てと両手を上げて諭される。

「なんか勘違いしてねえか?昨日の試合を観戦してたバスケ部とかバレー部がお前のバイシクル見てたみたいでお前がかっこいいって噂が広まってるぞ。ツイッターに動画まで上がってたからなぁ。」

 え…なにそれ…聞いてないんだけど。

「ほらこれ見てみな。」

 スマホを渡されそこには見事なバイシクルシュートを決める俺が映っていた。

 美しい…

 じゃなくて!これプライバシーの侵害だろ!でもあんまり騒いでホントにいじめられたらどうしよう…まぁ悪口言われてるわけじゃないしとりあえずこのままでいっか。

「悪い。勘違いしてたわ。でも頭叩いたのは謝れ。な?」

「お、おう。すまん。とりあえず俺教室行くわ。」

「わかった。また部活ん時なー。」

 あぁよかったー。いじめられてなかった。



 教室に戻るとやはり注目されている。なにこの嫌な感じ。すぐこんなの終わるだろうし今日は寝たふりして過ごすか。

 机に突っ伏して色々と考えているとすぐに声をかけられた。

「あ、いたいた。どこ行ってたの?」

 顔を上げると前の席の上田恵(うえだけい)さんだった。彼女は確かバレー部だったはずだ。もしやこの子も見てたのか。

「いや、いじめられ始めたのかと思って教室から逃げたんだけどそうじゃなかったことがわかって戻ってきた。なんか変な噂が流れてるらしくてさ…めんどくさいことになったよぉ。なんか動画まで誰かがネットに上げてるらしくてさ…」

「あ!動画みてくれた?良く撮れてたでしょ?」

「まぁ、自分で言うのもなんだけど美しいバイシクルだった。」

「バイシクルってなに?」

「オーバーヘッドキックのことを今はそう言うんだよね」

 ・・・あれ?さっきなんか変なこと言わなかったこの子?

「そうなんだ。あんたってサッカーうまいんだね。びっくりしちゃった。」

 黙りこみさっきの上田さんの言った言葉を思い出す。


 ・・・!?


「お前か!!!」

 思わず立ち上がり大きな声を上げてしまった。

「びっくりしたー。何がさ?」

 なんでこんな落ち着いてんだこいつ!

「いや、さっき動画上げたって言ったじゃん!あれ?聞き間違いだった?」

「あぁそれか。そうだよ。あたしが上げたんだ♪」

 めっちゃ笑顔!なにこいつ…どんな神経してんだよ!

「あぁそうなんだ…」

 もうなにも言えないよ。

「そういえばなんか用でもあったの?」

 もうどうでもよくなってきた。さっき声をかけられたのを思いだし尋ねてみる。

「あぁ人気者になる前に唾つけとこうと思ってさ。あとあの女子の先輩とは付き合ってるの?」

 え…この子こんな感じなの?なんか篠原と近いものを感じるな。

「唾つけるって…もっと言い方あんだろ。おっさんみたいだなお前。ちなみに俺に彼女はいない。あの先輩とは腐れ縁ってやつだ。」

「彼女はなしっと。よし!おっけー。」

 彼女はおもむろにスマホを取り出し慣れた手つきで操作した。

「え、なにしてんの?」

「なにってあんたに彼女がいるのかがツイッターで話題になってるから今呟いたのよ。」

「だからそれやめろってば!」

 なにこいつ!恐いわ!

「メンゴ♪」

 あ、こいつホントに篠原そっくりだわ。あとちょっとで手が出るところだったわ。

 朝からしょうもないやり取りをしていたが、なんだかんだでこいつとは気が合いそうな気がした。



 授業から部活までどこへ行ってもいじられまくる地獄のような日を何とか乗りきり家に帰る。

 母親がニヤニヤしながら近寄ってくる。

「ハル、見たわよ。お母さん動画保存しちゃった♪」


 家でもかよ!っと心の中で全力でツッコんだ俺でした。

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