第13話

 2試合目はうちのチームが1-0で勝利を手にした。

 無失点で終われたことは大きな収穫だろう。


 いよいよ今度は俺たちの試合だ。



 フォーメーションは右のFWに輝君、RMFに篠原、右のCBに同じく2年の本渡君、GKは3年の上田君が入ってくれるということだった。

 試合開始の時間が近づいてくる。緊張が体を支配していく。他の皆はどんな感覚なのだろうか。


 前半は相手ボールからのキックオフとなった。

 相手は4-4-2のダイヤモンドで、アンカーにいる人間が全てを任されているようだ。中盤の底にどっしりと構え、ディフェンスの指示から攻撃の組立までやっていた。

 お互いのディフェンスが良く、危険なシーンはほとんど無いまま10分が過ぎた頃、緊張はほぐれ頭はクリアになってきた。

 相手の指示系統は1つ。更に相手に長身の選手はほとんどいない。サイドからクロスを放り込む形を作りたいのだがお互いに数的有利を作り守れているためサイドをえぐれずにいた。

 自分の中に焦りが生まれる。それが隙を生んでしまったのか、無意識のうちに高い位置にポジショニングを取ってしまっていた。

「ハル!ちょっと引いて!」

 篠原からの声が届いた時には後ろを取られていた。

「クソッ」

 死角から走り込まれ右サイドハーフからのパスを簡単に通してしまった。

 前を向いた状態でパスを受けた相手のOMFはそのままドリブルでバイタルエリアまで持ち上がっていく。相手の左サイドを警戒していた大ちゃんが対応のために中央に絞り始める。その動きを見た瞬間にFWに縦パスを入れる。FWにパスが通る。すぐにCBの清水君が左を切りながらプレッシャーをかけたので前を向くことはできない。そこに大ちゃんもサンドしてボールを奪いにかかる。パスの出し手はそのままこちらの右サイド寄りに流れペナルティエリアに侵入しようとしている。

 俺じゃ間に合わない。

「本渡君! 流れます!」

マークを渡し状況を把握しようとした瞬間。視界の端に走り去る影を捉えた。

嫌な予感がした。急に血の気が引いてしまった。

そこには自分が空けたスペースに走り込む相手のLMFとそれを後ろから必死で追う篠原の姿があった。

そして、ボールをキープしていたFWは足の裏でボールを転がし上手く清水君の股を通す。ボールはその先に走り込む相手のLMFへと渡る。

そのままドリブルで持ち込まれ先制点を許してしまった。

「ごめん。マークつききれなかった」

 息をきらしながら篠原が謝る。


 そうじゃねえだろ。俺のポジション取りのミスから始まって、そのまま焦った俺がサイドに引っ張られて中央にスペースを与えてしまった。更にそれが失点にまで繋がってしまった。


 こんなはずじゃ無かったのに…。

 相手を出し抜く一手を考えていたのに、頭が真っ白になってしまった。

 俺のせいだ…。


「下向くんじゃねえよ。お前ら何考えてんだよ。勝つこと以外に他のこと考える余裕があるならこの試合負けたら承知しねえからな。勝つことだけ考えて動け。それから橘、俺とポジション代われ」

 輝君の発言でチームに緊張が走る。

「わかりました」

 自分のポジションにそれぞれが散っていく。輝君だけが俺に近づいてきた。

「ハル、お前にサッカーを教えてやる。よく見てろ。絶対勝つぞ。

 いつもの輝君がそこにいた。

 自分の不甲斐なさを突きつけられたが、いつまでも悔いてばかりではいられない。後悔や反省は後回しだ。

今は勝つことだけを考えろ。

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