第4話

 学年混合の紅白戦を終え、無事自分の靴を篠原から返してもらい輝君も含め3人で下校することとなった。昔話に花を咲かせているときにふとあることを思い出した。

「あのさ、今週まで練習着とスパイク貸してよ」

「どしたの? 私のこと好きになっちゃった?」

 うっざ……。

「輝君、練習着とスパイク貸してくんない?」

「嘘! 嘘! 使っていいからあげるから!」

 篠原が慌ててフォローを入れるがそのフォローすら少し鬱陶しく思えた。

「いらない」

 きっぱりと断り輝君の方を見る。

「別に練習着を貸すのはいいけどスパイクはサイズ違うから蓮華の貸してもらえよ。てか自分のどうしたんだよ?」 

 輝くんは俺の練習道具の行方について気になっているようだ。まぁそりゃそうだよね。

「私だと思って大事に使ってね」

 うっざ……。さっきからこいつなんなの?

 篠原のキモい発言で数秒の沈黙が生まれる。ひとまずスルーして話を戻す。

「全部捨てちゃったんだよね」

「お前なぁ……。普通捨てるか? 愛着とか無かったの?」

 輝君はあきれていた。

「全然。あんまそういうのわかんなくてさ。今週の日曜って練習終わったら暇? スパイクとか買いたいからちょっと付き合ってくんない?」

「はーい! アタシも行きまーす!」

 え……ついて来んの? まぁしかたないか……

「悪いな。日曜はちょっと予定があってな。蓮華と二人で行ってくれ」

 まさかの輝君NG。

 マジかよ……。呼んでねえやつがくんのかよ……。

「なんでそんな顔すんのよ! デートだデートだー」

 あからさまに嫌そうな顔をした俺に篠原がツッコむ。

「もうなんでもいいや。んじゃ日曜頼むよ」

 まぁ……仕方ないか……

「折角だからついでに映画も観ようよ」

 篠原が一人ではしゃいでいる。ついでにってそっちの方が時間かかるんですけど……映画のついでにスパイク買うみたいになっちゃうじゃねえか。てか映画観たら半日つぶれちゃうじゃん。

「やだ」

「お前冷てーな」

 拒否した俺に輝君がニヤニヤしながら茶化す。この人楽しんでるな…

「え? 普通じゃん?」

 思っていた通りのことを言って篠原にとどめを刺す。

「別にアタシはこれはこれでアリだからいいけどね」

 何言ってんだこいつ……。

 輝君の方を見ると同じ顔をしていた。

「お前はもうちょっと自重しろ? な?」

 輝君が篠原に優しく諭す。

「あれ? 二人とも引いてる?」

「「うん」」 

 二人の返事が重なる。

「なんでノータイムで頷くのよぉ! 酷くない?」

 ぎゃーぎゃー騒ぐ篠原は放置して最近のスパイクについて輝君から色々と教えてもらうことができた。

 なんだかんだで中学の時からこの二人とはよくつるんでいた。先輩だけど同級生よりも素の自分に近い感じでいられる。兄弟がいればこんな感じなのだろうか。

「そういえば今更だけど皆がいるときは俺らにも敬語使えよ? 別に3人でいるときは今まで通りでもいんだけどさ。他の1年もいるんだから頼むぞ」

 輝君が真剣な顔で言う。

 たしかに俺も配慮が足りなかったな。気を付けよう。

「アタシのことも篠原先輩と呼びなさいな。もしくは姉御とかどうかな?」

 この女は……

「うっさいなババア」

「ちょっとお! 輝先輩、この子酷くない?」

 篠原は輝君の袖をぐいぐい引っ張り加勢を乞う。

「うっさいぞババア」

 あ、輝君も乗ってきた。

「アンタ達何なの? 泣くわよ?」

「「どうぞ」」

 俺と輝君は再びシンクロした。

「アンタ達ねえ! ちょっと頭出しなさい引っ叩いてやるからホラ早く! こら逃げんな!」

 またこうやって3人で馬鹿話ができるとは思ってもみなかった。あまり期待していなかった高校生活だったけどこれから騒がしくて楽しくて忘れられない3年間になるような予感がしている。


 暮れ始めた空には三人の声がいつまでも響いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る