ガトリングコミッティー・ストライクス・アゲイン

naka-motoo

第1章 ガトリングコミッティー・ストライクス・アゲイン

ガトリングコミッティー・ストライクス・アゲイン

 促されてタイトルだけ先に浮かんだ。


”ガトリングコミッティー・ストライクス・アゲイン”


「おー、いいじゃない」

「そう、ですかね」


 気乗りしないわたしの様子に構わず、部長は解説を続ける。


「すごくいいよ。一気に期待を抱かせるタイトルだね。意訳すると、”ガトリング委員会、またやってくれた”か。ところでガトリングって何?」

「え、と。この間の輪読会の小説に出て来た戊辰戦争当時の最新輸入兵器です」

「ああ。あの機関銃のことか。で、なんでそれが”委員会”なの」

「いえ。単に語感だけで、ぱっ、とコミッティーって英単語が浮かんだので」

「いやー、いい話ができそうだね」

「はあ・・・」


 部長は4年生の花井はない佳菜子かなこさん。ぱっとしない大学のぱっとしないこの”文芸部”でありながら、文芸誌としては発行部数トップの看板月刊誌を持つ出版社から奇跡の内定を得た才女だ。それだけじゃない。彼女は3年生の時にとあるネット小説のファンタジー部門で大賞を取り、既に本を1冊刊行している。


「大丈夫だよ。まずは第一印象で”読みたい”、っていう読者の気持ちを掴まないと。長谷はせちゃんの小説、わたしは好きだけど、”自転車に乗るわたし”、じゃなあ・・・タイトルだけで、いいや、って思われて終わりだよ」

「はあ・・・」


 因みにその、”自転車に乗るわたし”、というわたしの小説はこれまたある月刊誌コンテストの一次審査は通ったものの二次で落ちた。


「長谷ちゃん、当然、異世界ものにするんだよね」

「異世界ものとか苦手で。想像力が無いもんですから・・・」

「そんなの、自分にとって”都合のいい世界”を勝手に作っちゃえばいいんだよ。そしたらどんなストーリー展開でもありになるから」

「でも、なんか、リアルな感じがしないと自分自身不安で」

「リアル、って何? そもそも今の現実世界にリアルなものってある?」

「え? どういう意味ですか?」

「だってさ、今年一番売れた商品って、車でもビールでもお菓子でもなく、興業収入トップのアニメでしょ」

「ああ、そうですね」

「それって、”モノ”、としてのリアルな商品ではないよね」

「んー。形は無いですね」

「そもそも小説だってそうでしょ」

「そうですか? わたしは小説読んでる時、登場人物の”人生観”、みたいなものに結構惹かれるんですけど」

「でも、それは架空の登場人物の話。今時作者が自分を投影して書く小説なんて少数でしょ」

「かも、しれないですね」

「読者が望むものをきちんと作り出していくべきだよ。たとえそれが現実じゃなくても」

「でも、異世界で生きていける訳じゃないですし・・・」

「当然読者もそんなの分かってるよ。でも異世界に浸れる時間が必要なほど現実に実感が無いんだよ、今の世の中は。仮に読者がそのまま現実世界に出ないで一生生きていくとしてもそれはそれで仕方ないんじゃないかなあ」

「そうなんでしょうか・・・」


 寮に戻り、タ、とPCを起動する。

 部長のいう、キャッチーなタイトルは浮かんだのに、なぜだか本文につながらない。


「だめだな」


 画面に打ったタイトルをそのままデリートする。


”タイシとシナリ”


「月並みだけど、やっぱりこれかなあ」


 ガトリング砲はエピソードとして挿入するつもり。ただし、主人公の少年の先祖が、実戦でガトリング砲に立ち向かった、という内容で。先祖は武士。主人公も武士の子孫らしい潔い子に描こう。

 

 うん。

 

 そりゃあ、わたしだって現実の世界が不条理で、テロや殺人やいじめなんかが繰り返されてる冗談みたいな世界だってわかってる。でも、だからこそ、どこかよそにある異世界に行くんじゃなくって、この世の中そのものを理想を目指した異世界に反転させなきゃいけないんじゃないかな。

 主人公の男の子は、大志タイシ。もう1人の女の子は、志成シナリ、って名前にしよう。

 ちょっと恥ずかしいけど、”大きな志を成す”、でタイシとシナリ。


 部長、ごめんね。また地味な展開になっちゃうかもしれません。


 でも、わたしにとってはこの方がいい。

 この物語を本当の現実にできるように、そんな願いを込めて書いてみよう。

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