第84話 聖夜の宴

「じゃあ俺が肉焼きますよ」


 そうしてトングで肉を掴み、良く熱せられたホットプレートに置いていく。

 アカギさんは「自分がやるから良いでござるよ」と言っていたが、世話になっている事だし、自分がやらなきゃ意味もないと思う。


 一方、他の彼女達は既にもう食べ始めようと料理を取ろうとしている。


「いただきます」


 そして、その一言の後に食べ始める。

 俺も肉を置き終わったらすぐに食べるつもりだ。それにしたって……

 取る料理によって、普段どんな生活を送ってるかだいぶ分かるものだな……


 カラカルはまず最初にサラダを食す。

 肉食だけど、こういう所はちゃんとしている。

 また、サーバルは好きなものばかり食べる。それをカラカルが注意する。


 ちゃんと野菜も食べようね?


「さて、俺もボチボチいただきますか……」


 ご飯を食べるのは良いんだけど、やっぱり気になるのはお酒。

 紙コップに注がれたそれは、俺にとって未知のものであり、俺が飲んだらどうなるか…

 酔うのは分かってるんだけど、どんな味がするか……


 気になるけど、後回しにしておこう……

 そう思っていた直後、突然隣に座っていた彼女……アライさんが声をかけてきた。


「あ、メイ!このハンバーグアライさんが作ったヤツなのだ!はい、あーん!」


 そう言う彼女の手には、箸に挟まれたハンバーグがあった。

 他の人もいるんだけどな……と困惑しながらも、


「えぇ!?え、え〜と……あ〜ん?」


 と口を開ける。ちょっと顔が熱くなった気がする。


「美味しいか?」


「お、美味しいよ……」


 確かにそれは美味しかった。アライさんが数年に渡ってハンバーグを好むのも納得の美味さ。

 それはそうなんだけど、どうしても視線が気になる。きっと俺の顔は真っ赤だ。

 こんな所を人に見られる事に慣れてないんだ。


「はい、カラカルもあーん!」


「あんたねぇ……私はいいわよ、勝手に食べてなさい」


「じゃあキタキツネ、あーん!」


「な、なんで私になるのよ!」


 真似されちまった…



 ◆



 それからしばらくは、会話を楽しみながら食事をした。

 アカギさんによるプチ手品的なものも見せてもらって、ちょっと盛り上がった。

 しかし、依然としてお酒には手を付けられてない。


「……メイ殿、そろそろ決心するでござるよ」


 分かってるんだけど、なんだか飲めない。

 何故かビビってる、数年前はこんな事よりも大きな出来事があったって、すぐにその渦中に飛び込んでいったのに。


「無理だったら拙者が飲むでござるよ?別に無理をする必要は無いでござる。」


「……えーい!飲んじゃえ!」


 ゴク…ゴク…

 とその紙コップに注がれた酒を飲んでいく。

 なんとも言えない感覚なのだが、味は確かだ。


「美味しい」


「これでお酒デビューでござるな!もう一杯行けるでござるか?」


「あ、じゃあお願いします」


 味は普通に美味しいので、おかわりを頼む。

 ただ、ちょっと酔うような感覚はするので飲みすぎは良くないだろう。

 まだこの後の余興もあるし。



 ◆



 だいぶ料理も減って、そろそろ……と言ったところか。

 買ってきておいたあれを食べる時だ。


「アカギさん、そろそろ良いですかね?」


「あぁ、大丈夫でござるよ」


 皿をまとめておき、テーブルのスペースを開けておく。

 そして、冷蔵庫で冷やしておいたケーキ……先ほど、アライさんと一緒に買ってきたあれだ。

 それをテーブルの上に置く。


「お待たせ、今晩のメインだよ!」


「わぁ、美味しそうなケーキ……!」


「って、あんたさっきあんなに食べたのにまだ食べるつもり?」


 そのケーキは、白い生クリームにイチゴやキウイなどのフルーツ、食用ビーズなどでデコレーションされた、「ジャパリケーキ」特製のクリスマスケーキ。


 甘いものに目がない少女達は、目を輝かせてそれを食べたそうに待っている。

 小さなナイフでケーキを切り分けていく。

 切る度に、一層美味しそうに見えて、生クリームだけでもつまみ食いしたくなる。


「はい、これがサーバルの分と……これがアライさんの分で……」


「は、早く食べたいのだ……」


 できるだけ、同じ大きさになるように切り分けたつもりだ。


「これで全部だね?」


「よし、食べるでござるよ!」


「やったー!カラカルのイチゴもーらい」


「あ、ちょっと、やめなさいサーバル!」


 と何故かイチゴの取り合いが始まってしまった。



 ◆



 そうしてしばらくケーキを堪能していた。

 が、ケーキを早く食べ終わってしまった俺はつい調子に乗ってお酒を飲みすぎてしまったようで……


「大丈夫か?メイ……水、持ってくるか?」


「あぁ、大丈夫だよぉ……でも一応水もお願いしますぅ……」


 酔ってしまった。

 なんだか心地良い気分になって、だけど立つと少し足元がふらつく。

 慣れない酒を飲みすぎるんじゃなかったよ!


 ということで、少し離れたところにあるソファーで座りながら水を飲んでいる。

 ところで、なんでこういう時には水が良いんだろう…

 深く考えられない頭じゃよくわからない…


「はい、水なのだ」


「アライひゃん…?大丈夫って言ったはずなんだけどぉ……」


「明らかに大丈夫じゃないのだ。これを飲んで少し休んだ方が良いのだ」


 そんなアライさんの言葉を聞いて、何故か涙する。


「ごめんね……そうするよ…」


「ふぇぇ!?なんで!?なんで泣くのだ!?い、いいから泣き止むのだ!」


 かなり酔ってるのか、かなり情緒不安定になっちゃったらしい…

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