第26話 登山

「それにしても山の中って落ち着くな~。」


元々自然の中に暮らしていた動物の本能か、それともただ単に自然が好きなだけか。

それは分からないけど、なんとなく落ち着く。


「二人共…置いていかないでくださーいー!」

「いやもう疲れてるんですか!?やっぱ降ります?」

「い、いえ、大丈夫です…登りきります!」

「疲れたら無理しないで休んだ方がいいのだ!もし休みたかったら遠慮なく言うのだ!」

「は、はい…」ゼェゼェ


しっかし、本当に落ち着くなぁ…

鳥の鳴く声。木々のせせらぎ。

そよ風は吹き、太陽の光は木漏れ日となって差す。


「もし大学にいってたらこんなリラックスできる時間なんて作れなかったんだろうな…」

「メイ!あっちを見るのだ!川が流れているのだ!」

「わ~、ホントだ。上の方から流れてきているのかな?」

「アライさん、川の方に行きたいのだ!」

「ん~、じゃあ休憩にしよっか。」

「わ~い!」

「もう行ってるし!?」

「はぁ…はぁ…やっと追いつきました…」

「ミライさん、ここで休憩していきますよ。」

「すいません、私のせいで…」

「いえいえ、そんな事ないですよ。」





「洗うのだ~!!」ザバザバ

「まだ洗うの?洗い終わったら言ってよ?」


アライさんが手を洗ってる間に俺達は休憩する。

川の音…これもまた落ち着く。


「終わったのだ!さぁ、行くのだ!」

「ん~、もうちょっと休憩しよっか?」

「え~、早く行きたいのだ!」

「そんなに急ぐとあとで疲れるよ?」

「む~、分かったのだ…」


アライさんはそう言って、なにかいいものが落ちてないか探す。

それをまた洗うんだろうな…


「お2人は仲良しなんですね!」

「はい。もう出会って何ヶ月か経ちますから。」

「それだけじゃないでしょう?」

「え?」

「きっと運命の赤い糸のようなものが…」

「ちょ…!ミライさん!///」

「冗談ですよ、冗談。」

「もう…」


そんな他愛のない話をしながら、ふと思いついた。

せっかく自然の中にいるんだし、何か俳句でも詠んでみようか。

川…緑…木漏れ日…洗う…木々…小鳥…


「木漏れ日の 差す川の傍の アライグマ」


うん、我ながらすごいダメな俳句だな。

季語ないし。

これ本当何の俳句だ…


「アライさ~ん、そろそろ行くよ~?」

「は~い!なのだ!」

「そんなに手をびちょびちょにして…ほら、拭くよ?」

「タオルがふわふわで気持ちいいのだ~♪」

「微笑ましいですね…むふふ~♪」


後ろから変な笑いが聞こえたような気がする…

気のせいだ、気のせいであってほしい…!!





山頂へ、カフェへ向かって歩いていく。

途中で休憩を挟みつつ、雑談を挟みつつ。

自然の中を、ゆっくりと歩いていく。

なんとなくそれが幸せに感じる。

人それぞれ充実した日々というのは違うけど、俺はこの自然の中で…歩いて、話して。

それが充実したように感じて。


「なんか幸せだなぁ…」

「私はキツイですよ…あとどれくらいで…着くんですか…?」ゼェゼェ

「ん~…今大体四分の三ぐらいですかねぇ…?」

「あと…四分の…一も…あるんですか…」ゼェゼェ

「頑張るのだ!ラストスパートなのだ!」

「すいません…また休憩入れます…」ゼェゼェ

「ゆっくり休んでいこう。」


そういえば、あまり疲れないな。

休憩…も時々挟んでるけど、それでも人間だった時よりも体力は結構上がったと思う。


「よし…もう大丈夫です!行きましょう!」

「あれ、少ししか休んでないよ?」

「無茶はしちゃダメなのだ!メイがいい例なのだ!」

「アライさん…それは一体どういう意味かなぁ?」

「いえいえ、大丈夫ですよ!本当に!あと少しなんですし!」

「わかった、じゃあ行きましょう。」





「「「着いた~!」」」

「長かった…長かった…」ウルウル

「そ、そこまで涙目するほどではないかな?」

「早速カフェへ行くのだ!アライさんが一番乗りなのだ♪」

「アライさん、そんなに急ぐと」

「のだ~っ!?」ドッテーン

「やっぱ転んだか…」

「お2人はこのカフェが目的だったんですね?」

「はい、1度来てみたいなと思ってて。」

「それじゃあ、早速入りましょうか。」





「それにしても色んなメニューあるなぁ…」

「あの~、いいのでしょうか?本当に奢ってくれるんですか…?」

「大丈夫大丈夫、バイト代まだ余ってるから。」

「ありがとうございます!では私はロイヤルミルクティーとホイップクリームマシマシスペシャルパンケーキをお願いします!」

「アライさんはアイスココアとこのベリーベリーストロベリーパフェが食べたいのだ!」


あ…結構金持ってくね、君達…


「じゃあ俺は普通に紅茶とりんごのタルト(りんご増量中)でいいかな。」

「すみませーん、店員さん、お願いしまーす!」





「お待たせしました~」

「お~、どれも結構美味しそう…」

「とても大きいパンケーキですね!」

「ミライさん!?それ大きすぎやしませんか!?」

「アライさんが5人いても食べ切れる自信が無いのだ!」

「心配しなくても大丈夫です…何故なら私はパンケーキが好きだから!!」

「それでもキツイよ絶対…」


そう言いつつりんごのタルト(りんご増量中)を口に入れる。

あ…結構うまい。

サイズこそ中くらいだけど、結構りんごが主張してくるなぁ。

りんごのタルト(りんご増量中)選んで正解だった!


「これ結構多いのだ…」

「アライさん、生クリーム付いてるよ?」

「えぇ!?」

「拭くよ~」フキフキ

「ありがとうなのだ!メイ!」

「てかそれ食べ切れるの~?」

「が、頑張って食べるのだ!」


そういややけに店内の目線がこっちに向いてきてるな…

どっちかっていうとミライさんの方に向いてるような…


「お、おい。嘘だろ!?あの人あの大食い選手Gですら完食できなかったパンケーキをモリモリと食っているぞ!?」ヒソヒソ

「あれは将来期待の大食い選手だ…きっとあの超大食いのAですら圧倒的に突き放すだろう…」ヒソヒソ





「「「ごちそうさまでした~!」」」


結局ミライさんはあのパンケーキを完食した。

人間のなせる技ではない…

アライさんはギリギリパフェを完食できたけど…動けなさそう。


「仕方ない、帰りはロープウェイで帰るか。」

「ごめんなさいなのだ…アライさんが食べすぎちゃったせいで…」

「いや?別に気にしてないよ。

「本当、仲がいい2人ですね…むふ~。」


そんなやり取りをしながら、俺達はロープウェイに乗って帰るのであった。

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