アネクメネの宅配便(デリバリーレンジャー)
藍白 かなめ
第1話 プロローグ
「父さん、俺、父さんみたいなデリバリーレンジャーになるから!」
墓の前で、一人の少年が決意を固めていた。
少年の手には、小さな骨のペンダントがしっかり握られていた。
そして、両手を合わせ、眼をつぶる。
「今日、12歳になったんだ。12歳になった時から学校に通えるんだよ!でね、今日母さんに、そのこと話したんだけど、デリバリーレンジャーはやめなさいっていつも言うんだ。でも、絶対デリバリーレンジャー育成学校に通うから!………母さんは、父さんみたいになることを恐れているかもしれないけど、俺だって……俺だって………」
南東から静かに風が吹く、墓の周りの草木はゆっくり何かを伝えるように少年に答えていた。少年は、フォレストワームと呼ばれる樹海の方角を向き小さく頷き家へとゆっくり足を動かした。
フォレストワーム、それは、蟲、菌、感染獣と呼ばれる多くの謎の生物がうごめく大樹海である。大陸の6割ほどがフォレストワームで占められており、大樹海は、何層もの地下深くまでも延びている。多数の国々は、交易、行き来の不自由から、フォレストワームを火で燃やそうとするが、蟲、菌、感染獣の抵抗によってフォレストワームは守られていた。不死の地域とも言われている。そこで国々は、交易や行き来のための特別な人材を得ようとしていた。それが、宅配便(デリバリーレンジャー)である。交易品や、人々の行き来の案内、護衛を主に行い、街に侵入して来た蟲、菌、感染獣から人々を守る一面もある特殊な訓練を受けた者たちだ。デリバリーレンジャーは、デリバリー協会によって管理されており、なるためにはデリバリー協会からの資格が必要だった。現在では、デリバリーレンジャー育成学校が多数の国々に作られており、卒業試験に受かることがデリバリーレンジャーになるための必須条件だ。
シュランは、そのデリバリーレンジャーになりたかった。今日は、12歳の誕生日だ。学校に行く資格が得られる日。でも、亡き研究家の父が、大樹海の巨大生物に食われて死んだ事が原因で母親アリアは、その事を気にし、シュランを引き留めていた。
「普通の学校入りなさい!お願いだから父さんと同じ危険な目には合わないで欲しいの…」
「母さん、お願いだから行かせてよ!俺、父さんが見た樹海を知りたいんだ。」
そう毎回のことのように言うと母は、いつもと違って、少し考え込んだ。樹海の底には、デリバリーレンジャーと一部許可された研究家しか入れない、一般人は、第一層辺り、しかも護衛がいなくては通行許可が貰えない。シュランは、父さんが見たという樹海が知りたかった。父さんのスケッチブックにしか見た事がなかったものを俺は知りたい。俺の決意の目は、母さんに向けられていた。
「はあ…わかったわ。でも、死んだら許しませんよ。」
そう言うと、寝室からデリバリーレンジャー育成学校へ行くための荷物と書類を持って来た。息子の決意の目を見た途端もう止められないと感じていたのだろうか。荷物と書類をシュランにゆっくり渡した。
「え、母さん!?」
「行っといで、あんたは、私の心配はいいから自分の夢のことでも心配しなさい。」
この流れがわかってたかのように母は、ゆっくり俺の背中を押し、歩かせた。そして、母は、そっと椅子に座り、コーヒーを飲む。ゆっくり息子の歩く姿を見ながら。
母は、多分事前に手続きを済ませていたのかもしれない。俺は、母の、この優しさと不安の両方を噛み締めながら、自分の夢へと歩き出した。
アネクメネの宅配便(デリバリーレンジャー) 藍白 かなめ @mirunoa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。アネクメネの宅配便(デリバリーレンジャー)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます