第33話 夢と現実の狭間で

 先日起きた、妖精さん達の集団外出事件をきっかけに、私はちょっぴり疑心暗鬼になりました。

 何もかもが夢じゃないかって気持ちが、拭えずにいたんです。

 そんな事を裕子ちゃんに話したら、爆笑されました。

 笑った挙句に、色々と言われました。


「あんたさぁ、こないだから暗い顔してると思ってたら、そんな事を考えてたの? 馬鹿じゃない?」

「だって、いきなり居なくなったんだよ!」

「居なくなったから夢だって? 私の存在も夢だって言うの?」

「裕子ちゃんが悪いんだよ。不安だったんだよ」

「何それ! 人のせいにしないでよね!」

「美夏が居たでしょ! それに、ちゃんとお土産を買ってきたでしょ!」

「そうだね、裕子が全部食べたけどね」

「いや、美夏ちゃんも食べてたよね」


 そうなんです。

 確かにお土産を貰いました、どこの名産か全くわからない、謎なお菓子をね。

 結局、美夏ちゃんと裕子ちゃんが食べちゃいました。

 良いんですけど、謎なお菓子ですから。

 美味しそうとは思えずに、私は手を付けなかったんですから。

 謎な物を食べたら、か弱い私の胃腸がやられちゃいます。

 

 それはともかく、あれから何だかフワフワして、地に足が着いていない感じがするんです。

 大学に居る時やバイトをしてる時、自宅に居る時だって、何をしていても何だか違和感がある様な。

 そう、夢の中にでもいる様な、気分になっているんです。


 そんなはずはないんです。

 だって確かに居るんです。

 妖精さん達は、ここに居て触る事が出来るんです。

 お料理の妖精さんが作るご飯は、とっても美味しいんです。

 お掃除の妖精さんは、せわしなく動き回ってるんです。

 ペチ達と一緒に、飼育の妖精さんが戯れてるんです。

 音楽の妖精さんが、素敵なメロディーを奏でてくれてるんです。

 これが夢なはずがないんです。


 でもあの時、考えてしまいました。

 この幸せな日常が、夢だとしたらって。

 むしろ、妖精さんが居ない方が当たり前なのだとしたらって。

 全ては、私が作り上げた幻想であったとしたらって。


 きっと私は、寝ていて。

 目が覚めたらお母さんが居て。

 私はまだ子供で。

 お母さんにこう言うんです。


「変な夢を見たさ」


 でも、そんな訳がないです、夢じゃないんです。

 私には二十一年の間、生きて来た思い出が有ります。

 色々な経験が、今の私を作っています。

 二十年そこそこの人生の中には、いつも妖精さんが居ました。

 妖精さんは、私の数少ない大切なお友達なんです。


「ねぇ、裕子ちゃん。妖精さんって何だと思う?」

「はぁ? 知らないわよ! お化けか異次元生命体でしょ! あんたの部屋はいつもホラー現象が起きてるんだし!」

「そっか。ポルターガイストは、裕子ちゃんも認識してるんだよね」

「美夏ちゃんは、どう思う?」

「僕にはわかんないよ」


 私は少しため息をつきました。

 すると、妖精さん達が集まってきて、私にしがみつきました。

 そこにある確かな現実を、確かな感触を感じます。

 

「大丈夫だよね。夢じゃないよね」


 妖精さん達は、みんな揃ってコクコクと頷いてくれました。

 私は少し涙が出ました。

 私の不安な気持ちが伝わったのか、妖精さん達がこぞって涙を拭ってくれました。

 優しい妖精さん達です。

 これが夢だったら、人生が全て夢です。

 きっと、それは否定しちゃいけない事なんです。

 

 確かに妖精さんは、非現実的な現象かもしれません。

 仮に、これが夢であったとしても、感触はしっかりとあります。

 妖精さんは、確実にここに居ます。

 この優しい存在を、この優しい笑顔を、否定をしちゃいけない。

 漠然とですが、そんな気がしました。

 

 そんな事を思った瞬間、少し部屋が光りました。

 少しの間、私は目を閉じてました。

 目を開けると、笑っている裕子ちゃんと美夏ちゃんが居ます。


「ねぇ二人とも。今なんか光らなかった?」

「僕は気が付かなかったよ」

「気のせいじゃない? まぁあんたは、脳みそがお花畑な方が似合ってるわよ」

「裕子ちゃんって、いじめっ子だよね」

「馬鹿なの? 私ほど優しい人はいないでしょ? こうやってあんたの下らない相談に乗ってあげてんだし」

「いちいち冷たい感じなのは、ツンデレさんだから?」

「誰がツンデレなのよ!」

「それで結局は、私の事が好きと」

「だ、誰がよ! ぶわぁ~か!」

「裕子ってさ、思春期の男の子みたいだね」

「いや、美夏ちゃんに言われたくないと思うよ」

 

 プリプリ怒って、裕子ちゃんは部屋を出ていってしまいました。

 でも五分くらいしてから、帰って来ます。

 

「あらぬ誤解を受けたわ! 屈辱だわ! 飲み明かすわよ! ご飯を作りなさいよ!」

「私が?」

「あんたが作ってどうすんのよ! 妖精とやらに作らせんのよ! つまんないボケをかますんじゃないわよ!」


 裕子ちゃんは日本酒を片手に、仁王立ちしてます。

 えぇ、この得も言われぬ存在感は、夢であってたまるかって感じですね。


 裕子ちゃんの食い気に、お料理の妖精さんが反応し、腕まくりをして鼻息を荒くしてます。

 やる気満々です。

 お料理の妖精さんってば、裕子ちゃんと相性が良いのでしょうか。

 いやいや、裕子ちゃんが単に食欲魔人なだけです。

 だって、裕子ちゃん所の子になるって聞くと、泣いて嫌がるですから。


 そんなこんなで、酒盛りが開始しました。

 珍しく私も飲んじゃいました。

 珍しくないって?

 嫌ですね。

 私は飲んだくれませんよ、滅多に。


 裕子ちゃんは、お肉をガツガツ食べながら、日本酒を飲んでましたし。

 ご飯まっしぐらな裕子ちゃんを見ると、いつもの日常を感じるって不思議ですけどね。

 そんな裕子ちゃんを横目に、妖精さん達との山手線ゲームは、超楽しかったです。


 モグとペチも何故だか盛り上がって、走り回ってました。

 騒がしいです、悪乗りする若者の図って感じです。

 でも楽しい日常がようやく戻って来た感じがします。


「ありがと」

「何がよ!」

「何でもないよ!」


 聞こえなくても良いんです。

 だって、何となく伝えたかっただけですし。

 

「みんな、ありがと~!」

「いやだから、なにがよ!」

「元気になったんなら、よかったじゃない」


 楽しい夜は更けていきます。

 最高の瞬間を、私は心の底から楽しみました。

 もう、不思議でも何でもいいです。

 これが私の現実なんですから。 

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