同.級.生
yuki
プロローグ 19年後の再会
ーー死にたい
そう思うようになったのはいつからだろう
ああそうだ、3年前のあの時からだ
男は近くのベンチに腰を下ろした。
死にたい衝動に駆られるたびに生き延びる為の行動はしてきた
自殺防止の人生相談ダイヤルに電話してみたり、精神病院にかかったりもした。
結果はどれも駄目だった…
人生相談は「自殺はやめなさい」の一点張り。
精神病院は診断をして薬を渡してくれはするが、その薬は一時的に気持ちを楽にするものであってなんの解決にもならなかった。
結局その度に職場の同僚や上司に助けられ迷惑をかけていた
ーーでも、今回はもう無理かもしれない
男の座っているベンチは大型ショッピングモール内の中央通路にあった。平日の開店したばかりの為か行き交う人の姿はまばらだ、男はその買い物客達を何げなく眺めていた。
ーーこの中で本当に死にたいって思った人間はいるのだろうか
カップルが話しながら楽しく買い物をしている
ベビーカーをひいた母親が子供の服を選んでいる
映画のパンフレットを持った若者が2人慌てて走っていく
その光景を眺めていると不幸なのは自分だけではないのかと思えてくる
それでも昔は自分もあちらの立ち位置にいた事を男は思い出す。
彼女や仲のいい友達と笑い遊んでいた過去の自分の事を……。
分岐点はいくらでもあったはず、でもその分岐から逃げて避けてきた。
そしてそれに気づいた時にはもう遅く、今からやり直せる自信が男にはなかった。
ーーもう一度生まれ変わって人生をやり直した方が楽ではないのか
後悔の念が男を死への道に導こうとするが男にはそれが出来ない理由が二つあった。
…あとに残された自分の子供の事
…近くにいるのに会えない地元の同級生の事
この二つの理由が男の決断を鈍らせていた。
特に同級生の事は凄く気になってはいた。自分と同じ年齢の人間が今どのように楽しんでいるのかを、ただそれと同時に惨めな自分を仲の良かった同級生に見せたくない気持ちも男には強く現れていた。
ーーみんなどうしてるかな?色々話したい事があるんだ…。
男はそれを思うたびに目頭が熱くなっていた
「ゆきじゃないの、久しぶりね。どうしたのこんなところで…」
その時だった。男の目の前に懐かしい女が立っていたのは
「ゆか…」
突然の再開に流れてくる涙を堪えきれず男は女の前で泣いていた
ーーーーーーーーーーーーーー
「ゆき、どうしたの?」
ベットから起き上がった俺に、隣で寝ていた彼女が話しかける
「なんだ寝てなかったのか」
「寝られるわけないでしょ、まだ昼の1時よ。赤ちゃんじゃないんだから、疲れたから少し休憩してただけよ」
2時間ほど前に偶然出会った同級生と俺は何故かファッションホテルの一室にいた。
突然泣きだした俺を彼女が慌てて自分の車に乗せ「誰もいないところで話しを聞くから」と言うと彼女はモールから30分ほど車を走らせた場所にあるホテルに移動した
「ちょっと煙草を吸ってこようかなと思って」
「またぁ、…さっき吸ったばかりでしょ。吸い過ぎよ」
彼女の愚痴を聞きつつもベットの上にある照明のボリュームを最大にする。昼間なのに外部から遮断され薄暗かった部屋が徐々に明るさを取り戻す。床に脱ぎ捨てあったバスローブを羽織りすぐそばにあるソファーに俺は腰掛け煙草に火をつけた。
「まったくもう、少しは人の言う事聞きなさいよ。…昔のゆきはそんなんじゃなかったのに」
彼女もまたバスローブを羽織り俺の横へと座る
「今も昔も変わってないよ俺は猫をかぶってただけだから…たぶん」
「そう、私には猫かぶってるように見えなかったけどニャン」
両手をグーの形にし手首を折り曲げている彼女…猫のつもりだろう。
「…なぁ、その格好かなり痛いよ」
「ひどい、せっかくゆきが喜ぶかなぁと思って可愛くポーズしたのに」
「若い子がやれば可愛げがあるけど…もう40歳手前の女がそれをやってもなぁ」
「あー、また歳の事言った。それは言わない約束だったでしょ」
「ああごめん忘れてた」
「それで何を考えてたの?」
「ちょっと、昔の事を色々と」
「昔の事って何があったの?さっき私とモールで偶然会った時のゆき、もう人生に疲れたって感じでひどい顔してたものね。」
「3年前かな、あの時はどん底だったからなほんとに…今もあまり変わってないけど。ところでそんなに俺って変わった?」
「変わったわよかなり老けたし、あの時と比べたら」
「あの時って19年前の事言ってるのか?それだったらお互い様だろ、ゆかも結構…」
「結構…なにかしら?」
目つきが鋭くなる彼女、もともときりっとした美人顔なので怒ると怖い
「なんでもない」
「そうよね。私はあまり変わってないわよね…他になにか言いたい事ある?」
「…ありません」
俺は吸っていた煙草を灰皿に押し付け火を消した。ソファーに座っていた彼女はテーブルの上に置いておいた自分の腕時計を確認するとベッドへと移動し腰掛ける。
「子供が学校から夕方4時頃には帰ってくるの、あと1時間ちょっと余裕があるけど…どうする?ゆきのお悩み相談タイムにする?私結局あまり話し聞いてないから、それとも…。」
無言のままソファーをたった俺はベッドに腰掛けていた彼女を押し倒した…。それを待っていた彼女は倒されるがまま抵抗もせずベッドの上に倒れ込む。お互いの唇が残りわずかに迫った時、彼女の口が動いた
「成人式、懐かしいね」
「そうだね」
その後すぐお互いの唇が重なりあい。しばらくの間、2人から会話が聞こえる事はなかった
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