第34話 出陣

1213年、5月2日、館の人々にとって、それは突然の知らせだった。

和田義盛からの早馬が、急を告げる。倒幕の謀議が漏れ、和田一党だけで立ち上がったのだ。

館の中が騒然となった。慌ただしく戦支度が行われる。庄内に知らせが走り、榎本一党が続々と館に集まってきていた。



藤木は国明の部屋にいた。黙々と国明は鎧を身につけている。黒地錦の鎧直垂に赤糸縅の大鎧は華やかでいて威厳があり、当主国明の武者姿を引き立てていた。平時ならば見愡れるその姿を、今、藤木は焦燥を持って眺めるしかない。


もうだめなのだろうか。


押しつぶされそうな恐怖が襲ってくる。藤木は必死でそれを追いやった。


そんなことない、絶対にそんなことは。


諦めたら全てが終わりだ。この一ヶ月、八百年後の世界から藤木がやってきたことが多少なりとも影響していたではないか。本家の干渉を退け、国明がすんなりと当主になった。婚姻もなくなった。榎本の結束だとて強くなっているはずだ。ならば今回の出来事も変わるかもしれない、変えなければならない。


せめて国明だけでも…


「藤」


突然声をかけられて、藤木はびくっとした。淡々と具足を身につけている国明だ。


「藤、白竜には乗れるな」

「…え…なに…?」

「おれが戻らぬときには白竜に乗れ」


一瞬、藤木は国明が何を言っているのかわからなかった。国明は藤木の方は見もせず、具足をつけている。


「口綱をはずせば、白竜はおぬしを乗せたまま小和賀の庄へ走る。そのために雅兼殿が置いていった馬だ」

「なっ…」


がん、と頭を横殴りにされるような衝撃が走った。この男は今何と言った。自分が戻らない時は馬に乗れだと。


「途中、悪路もある。ただ白竜の首にしがみついていろ。ならば落ちることもない」

「くにあ…」

「雅兼殿は信用のできる御仁だ。藤を大事にしてくれよう」

「国明…」

「おれが戻らぬときは、の話だ」

「国明っ」


鋭い声に国明がはじめて藤木を見た。わなわなと藤木は怒りに震えている。


「君、自分が何を言っているのかわかってるのっ」


藤木は押し殺した声で、しかし激しい口調で言った。


「死なぬ、なんて大きな事いって、結局自信がなくなったわけっ?」


ハッと国明は何かに気づいたような表情になる。藤木は拳を握りしめて国明を睨み据えた。


「その程度の覚悟なら、最初から出陣なんかするなよ。死なないっていうんなら、ちゃんと死なずに戻ってこい。僕が一人でおめおめ生き延びるとでも思ったのか、なめんな榎本国明っ」


びっ、と指を突きつけた先では、国明がぽかんとした顔をしていた。国明はしばらく目をぱちくりさせていたが、それから突然笑い出した。片手で額をおさえ笑い声を上げ、可笑しくて堪らないといった様子だ。今度は藤木の方が驚きに目を見開く。


「まいった」


国明がやっと藤木を見た。ふっきれたような表情になっている。


「すまぬ。おれにも迷いがあったようだ」


国明は手を伸ばして藤木を抱き寄せた。


「誓おう。おれは死なぬ。必ずおぬしのところへ帰ってくる」

「国明…」


藤木は固い鎧の上から国明を抱きかえす。


「国明、僕は待っているよ。僕を死なせたくなかったら必ず生きて戻ってきて」


藤木は顔をあげ、国明の頬を両手で包んだ。


「八百年後の世界の僕が君と恋におちたんだ。きっと変わるよ、何かをきっと変えられる」


藤木を見つめ返してくる黒曜石の瞳には、もう揺らぎはなかった。国明は藤木の体を離すと、部屋の外へ声を上げた。


「たれかある」

「はっ、御前に」


直ぐに秀次が駆けつけてきた。秀次もすでに鎧を身につけている。萌黄縅の大鎧は那須の与一にあやかっているのだろうか。


「秀次。白竜を放せ」

「は?」


秀次がきょとんと動きを止めた。藤木もびっくり顔で国明を凝視する。国明は微かに口元を上げ、藤木に頷いた。


「殿、今なんと…」

「何度も言わせるな。白竜を放せと言っている」


秀次が今度はあわあわと焦りはじめた。


「なっ何と言われまする、殿。あれは小和賀様が御渡り様に献上なされた馬、それを勝手に…」

「つべこべ抜かすな、与三郎」


一喝されて秀次は口をつぐんだ。だが、まだ何か心配顔に言いたげだ。国明はふと表情を和らげた。


「案ぜずともよい。あの馬は、一人で小和賀へ走るよう躾られておる。無事に小和賀の庄へたどり着くであろう」

「はっはぁ…」


まだ釈然としない様子で、それでも秀次は言いつけを守るべく退出しようとした。


「秀次」


藤木は秀次に声をかける。


「ははっ」


振り向いた秀次に、藤木は微笑んだ。


「立派な武者ぶりだよ、秀次」


ぱぁっと秀次の顔が輝いた。


「もったいなきお言葉でござります」


嬉しそうににこにこしながら、秀次は退出していった。その後ろ姿に藤木は胸を塞がれる。


「藤」


後ろから国明が肩を抱いた。素手ではなく皮のゆがけごしであるのが残念だと藤木は思った。


「藤、御渡り様として皆に声をかけてやってくれ。神の加護があれば皆強くなる」

「そのつもりだよ」


藤木は顔だけ振り向き、きっぱりと言った。だから今日も藤木は秀峰のジャージを着ている。これは神の衣装なのだ。国明は力強く頷いた。


「藤、口吸いを」


藤木は噛みつくように口づける。互いの唇を貪った。館の中や庭からは、大勢の人の声や武具の音が響いてくる。ようやく唇を離した二人は、じっと見つめ合った。これは今生の別れではない。必ず自分達は一緒に生きる。言葉にはしない誓いを互いに認め、二人は皆の待つ庭へと向かった。


館の広い庭は武具を身につけた郎党達で一杯だった。榎本一族や常駐している郎党達は館近くに陣取り、国明の呼びかけに応じて集まってきた者達はその後ろに控えている。その数は何百だろうか、改めて榎本は小領主ながら力を持っていると伺わせる光景だ。

皆の熱気が辺りを包んでいた。興奮して声高に喚き合っている。それでも、藤木と国明が姿を現すと、ぴたりと騒ぎがやんだ。急ごしらえだが館正面に設えた足場にまず国明がひらりと登った。大鎧を身につけているとは思えないほどの軽やかさだ。一際高い場所に立った国明は、全員を見渡し、大音声を上げた。


「時は来た。奸臣、北条を討つべく、ついに和田が決起した。三浦党が一つになれば新参者北条など恐るるに足らず」


おおーっ、と歓声がわいた。更に国明は檄を飛ばす。


「我ら榎本党、天に代わって道を正し、武勇を世に知らしめようぞ。見よ、我らには海神様のご加護あり」


国明は手を伸ばし、ぐいっと藤木を足場の上に引っ張り上げた。もともと身の軽い藤木は優雅な動きで国明の隣に立った。また郎党達の間から歓声が起こる。御渡り様じゃ、御渡り様、と口々に声が沸いた。

藤木は皆を見渡した。手前には忠興がいる。秀次もいる。いつも館にいる人々の顔、花筏を送ってくれた若い郎党達の姿もあった。武具や鎧が初夏の日射しをきらりとはじいていた。


「みんな…」


静かに藤木は口を開いた。歓声が止み、しん、と辺りが静まりかえった。皆、目を輝かせて藤木を見つめている。藤木は改めて自覚した。今、自分は神だ。彼らの神なのだ。藤木がすべきことは、彼らの行く末を案じることではなく、生きて帰ってくる気力を、信念を与えることだ。藤木はぐっと下腹に力を込めた。澄んだ声が庭に響く。


「榎本のみんな、僕の大切な人達、海神の加護は皆の上にある。榎本は強い。何よりも強い。だから…」


藤木は胸に迫るものをぐっと耐えた。気力を振り絞ってにっこりと笑う。


「だから、恐れるものは何もない。僕がみんなに力をあげる。いつも僕の力が側にある」


すっと両手を広げる。すらりとした両腕を伸ばし、藤木は高らかに言った。


「勇ましく戦ってきて。戦い抜いて、そして必ずここへ帰ってくるんだ」


海風がさぁっと吹きぬける。うす茶色の藤木の髪の毛が宙を舞って煌めいた。たとえようもない花容だ。鮮やかな白と青の衣を纏った神が、今、確かに榎本党の前に降り立っていた。

神々しいその姿に、割れんばかりの歓声があがる。御渡り様、御渡り様、と響きわたる声を抱きしめるように藤木は両手を正面に差し出した。おおおーっ、と全員がひれ伏す。ふと気づくと、国明も藤木の前に跪いていた。藤木は国明の手を取り厳かに宣言した。


「榎本党に幸いあれ」


国明が藤木に手を取られたまま立ち上がった。


「面をあげて天を仰げ」


当主の声にがちゃがちゃと具足を鳴らし、郎党達も立ち上がる。


「神の加護は我らにあり」


国明は高々と拳を天に突き上げた。


「いざ、出陣」


国明に倣い、全員が拳を突き上げる。えいえいおぅ、えいえいおぅ、と鬨の声が空気を揺るがした。

それから騎馬の者、徒の者、それぞれがきちんと陣形を組む。国明も足場から飛び降り、栗毛の愛馬に跨った。秀次、忠興がそれに続く。足場の上から藤木はそれを見つめた。秀次は萌黄縅の、忠興は紫糸縅の大鎧で、赤糸縅鎧の国明に並ぶ姿は華やかだ。忠興が黒馬にひらりと跨った。


「忠興っ。」


藤木はその姿に思わず呼びかけていた。馬首をめぐらそうとした忠興が動きを止める。足場から身を乗り出さんばかりにして藤木は忠興を見つめた。にかっと忠興が相好を崩す。


「土産を持って帰りますからなぁ、楽しみにしていてくだされよ、御渡り様ぁ」


まるで物見遊山に行くような呑気な口調だ。涙がこみ上げてくるのを堪え、藤木は笑顔で忠興に答えた。秀次がひょいと一礼して葦毛の馬首を門に向ける。じっと国明が藤木を見つめていた。


泣くもんか。


藤木は精一杯の笑顔になる。


泣いてたまるもんか。


ひたと国明は藤木の目を見つめ、力強く頷いた。国明は帰ってくる。そう信じられる。藤木もまた、しっかりと頷き返す。国明はすいっと前を見据え、馬腹を蹴って先頭に立った。秀次と忠興がその横にぴたりと付ける。おぅおぅと掛け声をあげ、榎本党は出陣していった。藤木は動かず、その様を目に焼き付ける。

この中のどれほどが帰ってこられるだろうか。出陣していく榎本党の姿を忘れまい、忘れてはならない、そう藤木は心に誓った。死地へ向かう者達へのせめてものはなむけだ。松の葉を鳴らし、海風が館の庭を吹き抜けていった。


具足の鳴る音や掛け声が遠ざかり、やがて聞こえるのは波の音だけになった。藤木はいまだ足場の上で、誰もいなくなった庭を見つめている。空は昨日と同じに晴れ渡り、ゆったりと雲が流れていた。海風も優しく頬を撫でていく。だが、もうここには誰もいない。国明も忠興も秀次も…



「御渡り様」



藤木はのろのろと声のする方へ振り向いた。秀次について藤木の世話をしている若い郎党が一人、立っている。


「すけのり…だったね…」


昨日、花筏を届けてくれた郎党達の一人だ。まだ元服していないことをからかわれていた。


「はっ」


若者と呼ぶにはまだ幼いこの郎党は、名前を呼ばれて嬉しそうにした。


「殿より、御渡り様の御側を離れぬよう言いつかってござります」


死なせるにはあまりに若すぎて国明も不憫に思ったのだろうか。だが、彼とそう年の離れていない若者達は、具足をつけて死地へ赴いた。彼らは死ぬ。昨日は一緒に花筏の枝を切っていた彼らが、明日明後日には命を失う。


でも、祐則は死なずにすむかもしれない…


折烏帽子をまだ許されていない祐則は、総髪を一つに括っている。


「祐則…」


藤木は最後に残った気力を振り絞るように微笑んだ。


「部屋に白湯を持ってきてくれるかな。少し、疲れたから…」

「はっ、まずは御渡り様、お部屋へ」


祐則の手を借り、足場から藤木は降りた。自分で感じる以上に気をはっていたのか、体が上手く動かない。


しっかりしろ、藤木涼介。


今頃国明は鎌倉への道を駆けているのだ。待つ身の自分が弱ってどうする。藤木は己を叱咤し、館の中へ戻った。






白湯を運んだ後、祐則は下がっていった。おそらくは控えの間で、藤木が呼べばすぐに駆けつけられるようにしているだろう。藤木はすることもなく、ぼんやりと外を見ていた。館はしん、と静かだった。時折、犬の鳴き声と下人や下女の働く声が聞こえるくらいだ。


いつもなら…


藤木は耳を澄ましてみる。


いつもならもっと賑やかなのに…


案外と館の中は様々な音に満ちていたのだと気づく。馬の咳や蹄の音、見回りの郎党の声、武芸の稽古に励む人々の声、ちょこちょこと忠興が顔を出し、よく気のつく秀次が世話を焼きにくる。そして国明…


藤木は国明がこの部屋で仕事をするときに座っていた場所を眺めた。藤木の畳のすぐ近く、東側の板戸の横に国明は座り、書簡に目を通したり書き付けを書いたりしていた。藤木がじっと見つめると、必ず気づいて顔を上げる。そして優しい笑みを浮かべるのだ。

藤木はかぶりを振った。いつも国明がそこへ座っていたわけではない。なのに、何故その場所がぽっかりと空虚に見える。床に射し込む陽の光すらどこか現実味がない。


「くにあき…」


小さく名前を呼んでみた。返事があるはずもない。藤木は脇息に顔を伏せた。


国明、国明、答えてよ、国明


しんと静かな館の中、誰の足音も気配もしない。息が詰まる。国明、君がいないと息が出来ない。


いつもみたいに大丈夫だと言ってよ国明…




「御渡り様」


人の声に藤木はびくりと顔を上げた。見ると廊下に祐則が平伏している。


「お休みの所、申し訳ござりませぬ。大殿が御渡り様へお目通り願いたいと申しておりますれば」

「大殿さんが…?」


国忠はあまり容態が芳しくなく、ずっと部屋で伏せったままだ。藤木は慌てて立ち上がった。


「待って、僕が部屋へ行く。大殿さんは病気なんだから」

「はっ」


一礼して先に立つ祐則に続きながら、藤木はほっと息をつく。誰かと一緒にいないと、どうにかなりそうだった。






国忠の部屋の前には、年老いた郎党が控えていた。藤木の姿を認めると、どこかほっと安心したような顔をして平伏する。


そういえば、館の守りに二十人くらい残していくって言ってたっけ。


よくよく見渡すと、あちこちに警護の郎党の姿があり、馬も何頭か残っていた。よほど気弱になっていたのかと、藤木は自嘲する。


しっかりしろ、藤木涼介。


もう一度自分に気合いを入れると、藤木は国忠の部屋へ入った。


「大殿さん」

「御渡り様」


伏せっていた国忠はなんとか起きあがろうとする。祐則が体を支えた。


「だめだよ、大殿さん、寝ていなきゃ」


藤木は傍らに膝をついて、国忠が起きようとするのを止めた。


「恐れ入りまする」


再び横になった国忠の手を藤木は握った。


「大殿さんの務めは、病を治すことだよ。無理したらだめだ」


国忠はにっこりと頷いた。それから横に控える祐則に言った。


「これ、御渡り様に菓子と白湯じゃ」


祐則が部屋を出ると、国忠はまた藤木にほほえみかけた。


「このところ、年のせいですか、気が弱くなり申した。若い者共が出払うと、爺は寂しゅうござりますよ」

「うん…」


国忠はまだ運命を知らない。本には前当主国忠も館で自刃、と書いてあった。たまらない気持ちで藤木は手を握ったまま俯いた。気持ちのいい風が開け放した戸から入ってくる。


「和田は負けまする」


はっと藤木は顔をあげた。国忠が静かな目で藤木を見ている。


「大殿さん…」

「昨日、雅兼殿が参られたと聞き申した。白馬を置いてゆかれたとか。あれが雅兼殿の精一杯でござりましょう」


藤木は呆然とする。雅兼の来訪で事の次第を悟ったというのか。ならば何故、国明を止めなかったのだ。


「じゃあなんで…なんで国明を行かせたの?わかってたなら何故…」


みるみる藤木の目に涙が溜まる。


「なんで止めなかったんだ…」


ぽろっと一粒、涙が零れた。藤木はぐっと唇を噛みしめる。


「御渡り様」


国忠は手を握る藤木をもう片方の手でぽんぽんと叩いた。


「御渡り様は全ておわかりなのですな。これから榎本がどうなるか、それがしのことも何もかも」


藤木は答えられない。ただ、肩を震わせるばかりだ。


「なんで…なんでだよ…滅ぶってわかっていてなんで…」

「榎本の当主でござりますれば」

「わかんないよ、当主だからって…」

「表だってはおりませぬが、国明は和田義盛の孫にござりまする。今動かずにいたとして、見逃されるほど甘くもござりますまい」


藤木はキッと国忠を見据えた。


「そんなのわかんないよ。やってみなきゃ、生き延びようとしたら何とかなるかもしれないじゃないか」

「卑怯者の汚名を着て生き延びたとして、そう長く持ちこたえるとも思えませぬ」


静かな声で忠興と同じことを言う。


「土台から腐りまする。より惨めな末路が待ち受けておりましょう」


国忠はどこまでも穏やかだ。国明と同じ色を湛えたその目に藤木は何も言えなくなった。確かに、年表を見ると、裏切った三浦も三十四年後には滅ぼされている。だからといって、諦めるのは嫌だった。ぐいっと藤木は涙を拭う。


「大殿さん、それでも僕は…生きてほしい…」


国忠はもう一度藤木の手をぽんぽんと叩いた。


「大丈夫でござりますよ、御渡り様。あれで国明はなかなかのつわものでござります。必ず御許に帰って参りましょう」


こくん、と藤木は頷くしかない。国忠はにっこりとした。


「ご案じめされますな。榎本の名を持って死ぬるは爺一人で充分。国明はただの国明になればよろしいのでござります」

「え…?」


藤木は意味を量りかねて国忠を見つめた。


「大殿さん…?」


国忠の目の奥に静かな炎のゆらぎが浮かぶ。藤木が何かを言おうとした時、廊下に足音がした。


「御前失礼つかまつりまする。」


祐則が菓子を運んできた。黒塗りの高坏にこんもりとあれこれ盛ってある。年老いた郎党が白湯の椀を二つ運んできた。


「御渡り様、爺もお相伴にあずかってよろしゅうござりまするか」

「あ…うっうん…」


それからは、とりとめもない話ばかりだった。藤木は国忠の真意を聞くに聞けず、それでも誰かと一緒にいられる心やすさからずっと国忠の部屋で過ごした。




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