第二十六話 黒い世界と星

 俺はヨミをお姫様抱っこをしてルイナと並んで飛んでいる。


「ヨミ、本当に大丈夫か?子供に見せれない光景を見せてしまうかもしれないんだが」

「私は、大丈夫。そんなの気にしない」

「そうか」

「アルト君、ルイナちゃん」


 副団長が近づいてきた。


「その子の話は団長から聞いたわ。それで作戦なんだけど」

「はい」

「剣士系・格闘家は最前線。射手系・魔導師系は前線。プリーストは後方に着く。けど二人は個人行動でいいわ。二人で協力してね。前には出過ぎないこと。危なくなったら逃げて後ろのハイプリーストたちに回復してもらったりしてね。わかった?」

『わかりました』


 しばらく飛んでいると左前方遠くに町が見えた。すると団長が止まり降りていった。それに続いて皆降りてゆく。


「各自持ち場に着け!」

『はい!』


 皆ぞろぞろと走って位置に着いた。俺はハイプリーストの人より後ろにあった岩にヨミを座らせてルイナの氷魔法で包んだ。透き通っているがかなり分厚い氷だ。


「いい子にしてるんだぞ」

「うん。頑張って、応援してる」


 そうして俺とルイナは最前線と前線の間に来た。


「ルイナ、怖いか?」

「それは否定したいところだけど、さすがに怖いし緊張するわね」

「そうか。俺もだな」

「まぁみんなそうでしょうけど」

「勝って帰ったら打ち上げがあるかもだから、一緒に飲もうぜ」

「なにそれ、死亡フラグってやつ?」

「見事に回収されなければいいけど」

「ふふ、そうね。一緒に飲みましょうね」


 雲が段々曇ってきた。


 こういうときは本当に曇るんだな。雨は降ってほしくないが。


 いやその雲は黒い雲だった。辺りが暗くなった。


「来るぞ!構えろ!」


 団長の言葉とともに第二騎士団はそれぞれ構えた。俺も刀を抜いて炎属性の魔力を付与した。

闇属性はガルアの勝負したとき以来練習をこなしてなんとか扱えるようになった。がもしものときに取っておこう。


 地平線に向こうから黒い物体が大量にこちらに向かって来てるのがわかった。目を凝らすと一つだけ図体のデカい物体がいる。


 あいつが魔王の幹部か。


 異様な頭に目が縦に二つあり、黒と紫と緑色の人型の体。


 その幹部が俺たちに向かって何本もある指をゆっくり開き手をこちらに向けた。すると手の前に大きく丸い球体の魔法できた。

 その魔法は何属性かもわからないどす黒い混沌の魔法。その魔法が俺たちに向かって放たれた。


「はっ!」


 それを団長が一人で切り裂いた。


「エスタル国第二騎士団!出陣!」

『おぉぉぉ~~!』


 団長を先頭に幹部たちへと走ってゆく。魔王の手下の魔物も奇声を上げてこちらに向かってきた。


「行くぞルイナ!ちゃんと息合わせろよ!」

「そっちもね!」


 俺とルイナも魔物たちのほうに走った。

 すると先にぶつかり合ってる最前線の人たちを飛び越えてやってきた人型魔物が俺に向かってきた。


「オラァ!」


 腹を斬ったが倒せず俺に殴りかかろうとしてきた。


「はぁ!」


 ルイナが氷魔法で凍らしてくれた。そこを再び斬ったが倒れず何回か斬ってやっと倒した。


「くっそ全然死なねーな」

「ならもう闇属性使っちゃえば?はぁ!」


 ルイナが次に来た魔物を倒しながら言った。


「マジか。もう少し温存したかったがそうするしかないか」


 俺は刀から炎属性の魔力を消し闇属性の魔力を付与した。


「この力も慣れたもんだ!」


 人型魔物と獣型魔物が2体ずつ襲ってきた。


「オラァ!」

「はぁ!」


 俺は刀を振り、ルイナは氷魔法を撃った。魔物は何もできずにやられていった。


「っしゃ!今度こそ行くぞルイナ!」

「うん!アルト!」


 俺とルイナは魔物が何十体かいる場所に走って入った。


 俺たち二人は息のピッタリなコンビネーションで刀を振る場所、氷魔法が撃たれるところを知っているかのように、次々と流れるように魔物を倒していった。


 それを見た騎士団の人は皆、『黒い世界よりも漆黒の深い闇を持つ者』と『黒い世界でも純白の凍てつく氷を持つ者』、そう思った。


 そのとき俺とルイナは『この二人でならどんな敵でも倒せる』、そう思った。


「結構片付いたな。よしルイナあの奥の魔物がたくさんいるとこに強烈なの叩きこめ!」

「おっけ~!我を本気にする者よ、全てを凍らす絶対零度の氷に飲み込まれ、華やかに散りゆくがよい!零凍氷華」


 ルイナは飛び、魔力をかなり使って広範囲に詠唱魔法を撃った。当たった魔物は氷漬けになった。


「大量だ!」


 俺は凍った魔物を次々と斬って倒していく。


「ふぅ、これで数もかなり減っただろ」

「そうね。それにしても団長凄いわね」

「ああ」


 団長は一人で幹部に立ち向かっている。その姿は一瞬でしか見えないが押しているように見える。でも時々幹部の攻撃が当たり吹っ飛ばされる。幹部もデカい体のわりには早く動きているし、物凄い力を持っているんだろうな。

 副団長も仲間の支援をしながら時々遠くから幹部に攻撃を当てている。

 後ろを見るとハイプリーストのところにもあまり人はいない。


「これなら勝てるかもな」

「最後まで気を緩ませちゃダメよ」

「わかってるって」


 俺とルイナが周りにいる魔物を確認しようとしたそのときだった。


「危ない!避けろ!」

「えっ?」


 ふと団長の声が聞こえて振り返ると、魔王の幹部の巨大な魔法が目の前にあった。

 急なことで避けることができず、その魔法は俺とルイナに直撃した。


「ぐぁっ」


 視界が黒くなり再び戻ると俺は地面に横たわっていた。


「な、にが、起きたん、だ」


 体中が熱くて痛い。

 目を前には俺と同じように横たわって血だらけのルイナがいた。


「アル、ト」


 俺は血だらけの手を伸ばしルイナの手を掴んだ。

 周りには大量の魔物が寄って来ている。


「アルト君!ルイナちゃん!」


 副団長たちが助けようと来るが魔物に阻まれた。


「く、そ。ここで、死ぬのか」


 魔物が俺とルイナに攻撃しようとしたとき


「あ、れは」


 魔物の横に魔法陣が現れてそこから隕石のような物が出て魔物を飛ばしていった。さらにハイプリーストより後ろの方から物凄い風と気迫が来ている。


 見るとヨミが空中に浮いていて、目の色が赤くなっている。


「……汚い体でアルトお兄ちゃんとルイナお姉ちゃんに触れるな!」

「ヨ、ミ」


 魔物はヨミを言葉など気にせず俺たちに向かってくる。

 するとヨミは首にかけている魔石ネックレスを取るとネックレスが俺に向かって来た。俺はそれを取った。


「もう少し、待っててね……」


 ヨミは俺のいるところに手を向けた。


「汚れし魔物ども、無垢なる流星に破壊され、宇宙の塵となれ」


 俺の上空に巨大な魔法陣ができた。


魔破壊デストリュクシオン流星メテオ


 ヨミが詠唱魔法を唱えると巨大な魔法陣から巨大な隕石が出てきた。


「最前線のものは前線まで下がれ!そして魔導師は防御魔法を展開せよ!」


 副団長が叫んでいる。


 最前線の人がいなくなった魔物は俺たちに集まってきた。だがヨミから受け取った魔石で近寄れない。ルイナの手を握ってるおかげか二人分の防御魔法が展開されている。


 巨大な隕石は俺とルイナの真上に落ちた。物凄い風圧と爆発が起こったが騎士団の人には被害はなく、辺り一面の魔物を塵と化した。


 気づくと俺たちの周りの地面だけがえぐれていた。


「全員、倒した、のか?」


 周りを見渡すと魔物は一体もおらず黒い雲も消え、魔王の幹部もいなくなっていた。


「アルトお兄ちゃん!ルイナお姉ちゃん!」


 ヨミが飛んで俺とルイナの近くに降り、走って隣に来た。


「大丈夫?」

「ああ、俺は大丈夫だけどルイナが気を失ってる。それとヨミ、お前」

「ごめんなさい、隠すつもりはなかったんだけど。二人とも見たら、怖がるかなって……」

「お前、めっちゃカッコいいじゃねーか」

「えっ」

「詳しいことは後で聞かせてもらう、けど、今は……」

「あっ、アルトお兄ちゃん!」


 俺は気を失った。





 目が覚めるとヨミの顔が見えた。


「起きた?」

「ん、ああ。痛ってぇ!」


 体を動かそうとすると体に激痛が走った。体を見ると包帯が所々に巻いてあった。


「動かないで。ひどい傷だったから」

「それより、ルイナは」

「ルイナお姉ちゃんも無事だよ」


 横を見るとルイナが俺と同じような状態で横になっていた。


「よかった。それであのあとどうなったんだ」

「魔王の幹部は団長さんによると私の詠唱魔法が撃たれたときに逃げたって言ってた。それで騎士団さんのハイプリーストさんに運こばれて応急措置をしてもらったところ」

「なるほどな」


 周りを見ると他の騎士団の人も安堵の表情で座って休憩しており、団長と副団長が真剣な顔をして話しているのが見えた。近くに岩があったのでここはヨミが最初にいたところか。


「んん」


 ルイナの目が覚めたようだ。


「おはよう、ルイナ」

「おはよー。って言ってる場合じゃな、痛ったぁ!」

「焦んなくてももう大丈夫だよ。もう敵はいない」

「え、あっ、そうなのね。ビックリした~」


 ヨミはルイナに状況を伝えた。


「なるほどね。はぁ~、不覚。私がこんなにダメージをくらうなんて」

「早く気づいていれば避けるかガードできたのにな」

「まぁ生きてたから良かったわ」

「そうだな。それで、ヨミ、あの力は」


 ヨミは深呼吸をした。


「えっとね。私の得意属性は、星なの」

「星⁉痛ったぁ!」

「バカかお前。静かにしてろ」

「だって得意属性が星の人なんて滅多にいないのよ!200年に一人か二人生まれるかどうかよ」

「そうなのか。凄いんだなお前」

「そんなことで褒められても、嬉しくない」

「どうしてだ?強くてカッコいい力を持ってるのに」

「私は、その強い力のせいで捨てられた。みんなに怖がられた。普通がよかった」


 ヨミの声が震える。


「辛かったんだな。でももう大丈夫だぞ?」

「えっ?」

「俺たちが怖がるから思うか?逆に羨ましいくらいだ。それにヨミも普通じゃないか」

「そんなことない。聞いたでしょ。私は200年に一度か二度の存在。特別な子」

「でもこうして普通に話せるし、普通に生活できるし、普通に生きている。同じ人間だ。あと言っただろ、ヨミと会えてよかったって。ヨミがいたほうが楽しい。その気持ちは多分一生変わらないさ」




『近寄るな!化け物!』


 他の子からも……


『なんでこんな子が生まれたのかしら』


 お母さんからも……


『俺たちに特別はいらないんだ。すまない』


 お父さんからも……



 私はずっと誰にも必要とされなかった。人から嫌われてきた、恐れられてきた。捨てられて当然だった。捨てられた時も何も感じなかった。


 それなのに拾われただけで、私を普通の人間と扱ってくれて、必要としてくれただけで、こんなに嬉しいなんて……。




「ありがとう。アルトお兄ちゃん、ありがとう。私も本当に会えてよかったし楽しいよ」


 ヨミは涙を流しながら言った。


「どういたしまして」

「ちょっとなに私抜きでいちゃいちゃしてるのよ。私もアルトと同じ気持ちだからね」

「いちゃいちゃって」


 こんな話をしてるのにこいつは。


「はは、ルイナお姉ちゃんもありがとう」

「どういたしまして~」



「さぁヨミのこともよく分かったことだし、俺たちは今どうすればいいんだろう。ずっと寝てればいいのか?」

「すまないね、少し話し込んでいて」


 団長が近くにやって来た。


「ごめんなさい、団長。俺たちが気を抜いたばかりに魔王の幹部を逃がしてしまって」

「まぁいいさ、第一に町を守ることが優先だったんだから。でも戦場で気を抜くとこうなることがよく分かったかな?」

「はい、体に刻み込まれましたから」

「よし。僕は今から騎士団全本部に今回のことを伝えに行くから、みんなは帰ってもらう。二人とも今は動けなさそうだから運んでもらってね」

「あの、ヨミのこと言ってヨミは大丈夫なんでしょうか」

「多分大丈夫だと思うよ。むしろ感謝されるんじゃないかな。この子のおかげで被害も少なく終わったからね」

「ならよかったです」

「じゃあまた一週間後に」


 そう言うと団長は飛んで行った。


 そのあと俺とルイナは担架に乗せられ騎士訓練場まで飛び運ばれた。ヨミいわく得意属性が星の人は詠唱魔法を使わなくても飛べるので俺たちが運ばれてる隣で飛んでいた。


 そして騎士団訓練所の休憩所で本格的に回復してもらった。


「う~ん。結構体の痛みも減ったかな」


 俺は体をほぐしながらベットから立ち上った。


「そうね。さすが騎士団のプリーストだわ」

「二人とも、治ってよかった」

「このくらいで済んだのもヨミのおかげだ。助けてくれてありがとな」

「うん!」

「そういえば宴会はなしになったんだっけ?」

「団長がいないからってね。もう14時になってるしなんか食べに行こ~」

「そうだな」


 俺たちは魔石ネックレスを副団長に渡して町に戻った。






「危なかったです。あの二人がタフでよかったですよ」

『・・・・・』

「笑いごとじゃありませんよ。まぁあの子との親交が深まったことですしね」

『・・・・・』

「はい。あと何日かでいいでしょう」


「ふぅ~。おや、あそこにいるのは。そうか彼女も・・・」


 その男はミノル町の上空で姿を消した。




 ミノル町にある避難所


「いや~、騎士団さんのおかげで助かったわぁ~。騎士団さんに感謝しないと」

「すごい音が鳴った時私もうダメかと」

「あっ、あの子あんな場所にいる!」

「女の子なのに昔から危なっかしいわねぇ~。でもあの子の力なら自分の身も守れそうね」

「うるさいのは勘弁だけどねぇ~」


 避難者が見ている高い時計台の上では


「騎士団にしては若い。高校生くらいか?中々カッコいいじゃねーか。俺の魂に響いてくるぜぇ!」


 その女の子は持っているエレキギターを鳴らした。

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