第二十五話 幹部
俺たちは夕方になって家に帰ってきた。
「ただいまっと」
俺は荷物を机に置いた。
「さぁここがヨミちゃんの新しいお家よ」
「綺麗」
「ふふ、ヨミちゃんは私と一緒に寝るからね~」
「わかった」
「それにしても初デートがこんなことになるとはな」
「びっくりね~」
「本当は二人きりのほうがよかった、よね。私に会ったせいで、ごめんなさい」
「謝ることなんてないよ。ヨミと会えてよかったし、ヨミも俺たちと会えなかったらどうなってたか」
ガルアも俺たちがあの時来なかったらどうしていたか。
「私も、会えてよかった」
俺はヨミの頭を撫でた。
「私もアルトと会えてよかった」
「お前は撫でないぞ」
「え~。あ、もちろん私もヨミちゃんと会えてよかったわ」
「後付けだから本当にそう思ってるか不安だな」
「本当よ~!ただアルトに撫でてもらえるかどうか先に試しただけよ」
「わかったわかった。ほら飯作れ」
「私は奴隷なの⁉」
「お前に言われたくない」
「ふふふっ、二人は本当に仲がいいね」
ヨミが笑ったのを初めて見た。
「そうかもね、よく言われるよ。さぁ、手を洗おう」
俺たちは手を洗って、ご飯を作り、食べた。
「ヨミちゃんお風呂に入るわよ~」
「アルトお兄ちゃんは?」
「二人があがってからね」
「一緒に入らないの?」
「一緒に入ると全体的にヤバいからね~」
「別に私はアルトと入ってもいいけど?」
「俺は嫌だ」
「拒否する理由なんてないじゃない。アルトも男の子なんだから」
「俺はそういうのに興味ない」
「ふ~ん。じゃあ二人で入りましょう」
「うん」
ルイナとヨミは風呂場にいった。
実際に俺はそういう系に興味がない。といっても男女が何をするかなどはよくわかっている。友達から聞いたり、ネットを見ていると何となくわかるものだ。
俺はソファーに座ってぼんやりとした。
しばらくすると二人があがってきた。
「入れるわよ~」
「アルトお兄ちゃんどう?これ」
ヨミは今日買ったパジャマを着て、くるっと回った。
「よく似合ってて可愛いよ」
「えへへ、ありがとう」
「今日ずっとヨミちゃんばっかりいいこと言ってもらってる~。私も何か言ってほしい~」
「わがままだな~。ルイナも可愛いよ」
「ありがと~!」
ルイナが俺に飛びつこうとしたが俺は避けて自分の部屋に向かった。
「ちょっとー!」
「風呂入るから」
俺はパジャマと下着を取り風呂場にいった。
風呂から出るとヨミが水晶玉のようなものを持って遊んでいた。
「なんだそれ?」
「ああこれはね、私が作った氷の玉よ」
「へぇ~」
「アルトお兄ちゃんも触ってみて」
「おぉ~、つるつるして冷たくて気持ちいい」
「溶けにくいけどずっと持ってたら濡れちゃうからもう終わり」
ルイナが氷に手を当てると吸い取られるように消えていった。
「もっと遊びたかった」
「体も冷えるからダメ。ほらアルトお酒飲むわよ」
こいつそんなに俺とヨミを仲良くさせたくないのかよ。まぁ悪意はないんだろうが。
「ヨミはどうするんだ?俺たちが飲んでる間暇だろ」
「私は、見てるだけでいい」
「そうか?ならいいが」
ルイナは冷蔵庫から酒を取り出して机に置いた。今日は4本だ。土曜日は日曜日に騎士団訓練もあるので大体このくらいだ。俺が一本でルイナが3本。
俺とルイナが椅子に座るとヨミが俺の膝に座った。
「おっと、大丈夫か?酒臭くなるかもしれないけど」
「私はここがいい。落ち着くから」
「ずるい~」
ルイナは俺の隣の椅子に座ってもたれかかって缶を開けた。
「っぱぁ~。おいしぃ~。ほらぁアルトも飲んで~」
「こんなお姉ちゃんでごめんな」
「酔うの早いね。アルトお兄ちゃんは?」
「俺はそこまで酔わないし、酒に強くないよ」
「私も、飲んでみたいな」
「ヨミは何歳なんだ?」
「覚えてない」
「そうか。大きくなったら一緒に飲もうな」
「うん」
そのときの俺はどんなことをしているのだろうか。魔王を討伐できてたらいいな。そしてルイナと結婚……。
考えていると顔が真っ赤になってる気がした。
「あ~もう~!」
俺は酒を一気に飲んだ。
「おぉ~、いい飲みっぷりじゃにゃぁ~い。私も負けてられにゃいわ~」
俺とルイナは酒を飲み終わって、ルイナが机で寝そうなので、いつもより酔っているがベットに運んで俺とヨミも寝た。
「あああぁー!」
ルイナのうるさい叫び声に目が覚めた。
「どーしたんだよ。そんなデカい声出して」
俺は体を起こした。
「どーしたもこーしたもないわよ!他の女と一夜を明かすなんて」
言ってる意味がわからなかったが俺の横で動くものでわかった。
「う~ん。おはよ~、アルトお兄ちゃん。ルイナお姉ちゃんも」
「おはよう、ヨミ」
ヨミは体を起こして大きくあくびをした。
「のんきに朝のあいさつをしてる場合じゃないでしょ!」
「うるさいな~、二日酔いで頭が痛いんだ。それと女と一夜を明かすとか誤解が生まれるからやめてくれ」
「もう!ヨミちゃんは私と寝るって言ったじゃない!」
「ヨミが俺と寝たいっていうからさ」
「ルイナお姉ちゃんが先に寝ちゃったから」
「う~。お酒飲むんじゃなかった」
「俺着替えるから、ヨミの服もあっちで着せてやって」
「は~い。ヨミちゃんおいで~」
ルイナはしょんぼりしながらヨミと部屋を出ていった。
俺はいつものコートに着替えてリビングに出た。キッチンに朝ご飯が三つ用意されてあったので机に運ぶと、ルイナの部屋から二人とも出てきて椅子に座った。そして俺はルイナに二日酔いを直してもらった。
『いただきます』
「どう?ヨミちゃん美味しい?」
「うん。美味しいよ」
「よかった」
「それにこの服も綺麗」
「半日も経ってないのにどうやって洗濯したんだ?」
「水魔法で洗って風魔法と炎魔法を調整して乾かしたのよ。毎日アルトのコートもそうやってるわよ」
「なるほど」
いつも洗ってる感じはあったがそういうことだったのか。
「そういえば今日騎士団訓練の日だけどヨミはどうする?」
「そうね~。留守番させるわけにもいかないから連れていく?」
「休憩所に預けるか」
「私、離れたくない」
「う~ん。お願い!時々行くからさ」
「……そんなに言うなら」
「ありがとう」
「私は休憩所行くの少ないかもしれないけどアルトは結構な時間で来るから大丈夫よ」
「おい、それは俺が弱いって言いたいのか」
「え?間違ってはないでしょ?」
「そ、そうだけど」
めっちゃ傷ついたわ。
「さぁ朝ご飯は食べたし、歯は磨いたし、顔洗ったし、寝ぐせも整えたし行くか」
「そうね」
俺は刀を腰につけて、三人で役所に向かった。
役所の地下の魔法陣に立った。
「まずは団長と副団長にヨミのこと伝えないとな」
「そうね」
『我をエスタル国騎士訓練場へ導け』
光は俺たちを包んだ。
俺はいつものようにがやがやとした騎士訓練場だと思っていた。だがそこにはサイレンが鳴り響いており騎士たちが慌ただしい様子で走っていた。
「どうなってんだ⁉」
「私もわからない。とりあえず団長か副団長を探しましょう」
「ああ」
俺たちはヨミをおんぶして人を避けていきながら騎士訓練場第二本部に行った。
扉を開けると団長がいた。
「団長!どうなってるんです⁉」
「アルト君にルイナちゃん。よく聞いてほしい」
ミラス団長は俺たちに近づいた。いつもと違って凄く真剣だ。
「なんでしょう」
「今魔王の幹部と大勢の手下の魔物が近くの町に向かっていることが判明した」
「えっ!」
「だから僕らは迎え撃つ。二人ともだ」
「わ、わかりました」
「二人は後ろのほうにいてもいい。危なくなったら逃げるんだよ。これは戦争だから」
「はい!」
「今はクレスが指揮を執ってる。だからクレスに作戦を聞いてきてくれ。それとその女の子は?」
「えと、この子は……」
なんて言えばいいんだろう。
「まぁいい。この子はここにいてもらおう」
「そうですね。ヨミはここにいて」
「やだ」
「お願い」
「二人が戦ってるところ見たい。お願い」
逆にお願いされてもな~。
「もう時間がない。ならこれを持ってて」
団長は棚にある箱から水色に光る宝石のようなネックレスを持ってきてヨミにかけた。
「これは防御魔法の術式があるかなり強い魔石だ。これとルイナちゃんの氷魔法でこの子を包んでくれ。もう行かないと」
俺たちは外に出て空中に飛んだ。空には夥しいおぞましいほどに人が飛んでいる。
「みんないるか?」
団長が大声で言った。
「第二騎士団全員揃ってます」
副団長が団長に近づいて言った。
目だけで判断できるんだな。
団長の腰にはいつもより長い剣が二つある。対魔物用というわけか。
「よし。今魔王の幹部と手下が近くの〈ミノル町〉に攻め入ろうとしている。我々はそれを阻止し、出来れば魔王の幹部を落とす!絶対に勝利し、生きて戻ろうぞ!」
『おお~~!』
耳に来るほどの掛け声をして、エスタル国第二騎士団はミラス団長を先頭に一斉に飛び向かった。
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