第三章 出会い
第二十四話 不思議な女の子
「アールート~」
「邪魔だ」
俺とルイナが付き合うことになってから二週間が経とうとしていた土曜の日。俺はソファーに胡坐をかき濡れた布で刀を拭いているとルイナがもたれかかってきた。
「ねぇ~、デートしよ~」
「刀を拭き終わったらな」
「先週は疲れたから今日は休ませてくれって言って行けなかったのに~」
「だから拭き終わったら行くって」
「もぉ~、もうアルトのこと嫌いになっちゃうんだから!」
「ご自由に」
するとルイナはさらに抱き着いてきた。
「お前言ってることとやってることが矛盾してるぞ」
「ご自由にって言ったじゃない」
「はぁ~。お前まさか俺の好みの人が『仕事熱心だけど他のことは甘えてて、よく側にいてくれる人』って言ったからそのとうりになろうとしてるのか?」
「それもあるけどこれは本心よ」
「あのな、甘えるのは時々でいいし、べったり体をつけろとは言ってないだろ」
「え~」
「時々でいいんだよ。それが俺の好みの人だから」
「なら時々ね」
まさかこんなデレデレになるとは思わなかった。1日連絡が来なかったら泣き叫びそうなやつだな。
ルイナは俺から離れて普通に座った。
「そういえばさ、気になってたんだけど」
「なに~?」
「前に騎士団で戦った時やガルアと戦った時に急に氷が大きくなったり、氷ができたりするのはどういう仕組みなんだ?」
「えっとね、氷が大きくなったのは、最初小さい氷があったでしょ?」
「うん」
「あの周りに氷属性の魔力を纏わせて途中で氷にしたのよ。ガルアの時は私が吹っ飛ばされてしゃがんでるときに氷属性の魔力を辺りに張って一気に氷にした。わかった?」
「ああ。そんなことができるんだな~」
俺は刀を乾いた布でよく拭き、鞘に戻した。
「よし、行くか」
「うん!で、どこにいく?」
「決めてなかったのかよ」
「こういうのは二人で決めるのよ」
「お前に言われるとはな。適当に歩くか飛んでれば行きたいとこ見つかるだろ。ほら行くぞ」
俺はルイナの手を掴んで玄関を開けた。
「ちょ、ちょっと」
「とりあえず商店街のほうに行ってみるか」
俺はすっとルイナの手を離すと
「なんで手離すのよ!」
「あんまり人前でいちゃいちゃするわけにもいかねーだろ」
「手を繋いでるだけじゃない!」
「それだけでもダメなんだよ」
「はぁ~あ~」
ルイナはかなりしょんぼりした。
「仕方ないなぁ~、ほら」
俺はルイナに手を差し伸べた。
「やった~!いい初デートね~」
ルイナは俺の手を取り一緒に歩いた。
俺たちは商店街に来た。
「何か買うものってないのか?」
「ん~、あるけど帰りにね」
「そうか」
商店街を歩いていると前にルーイン組と戦って俺が気絶した裏路地への道に来た。
「あのあとどうなったんだろ。結構大きい穴空いてたけど」
「誰か直してくれてるんじゃない?」
「見てみよ」
うす暗い裏路地に入って前戦った場所に行くと
「えっ、ガルア⁉」
「んぁ?あぁ久しぶりだな」
そこにはフードを被ったルーイン組組長ガルアと、小さな女の子がいた。
その女の子は真っ白な髪と紫色の目をして白黒のロリータを着ている不思議な見た目の子だった。
「お前こんな小さい子をいじめてんのか!」
「勘違いすんな。俺はこの子がこんなとこにいて危ないから注意してただけだ」
「そ、そういうことか。ルーイン組は子供をいじめる趣味でもあるのかと」
「んなわけねーだろ。てかお前ら随分仲がいいな。付き合ってるのかぁ?」
「ふふん、そうよ!」
「お前ドヤ顔で自慢気に言うんじゃねーよ」
一か月前とは真逆の反応だな。
「それよりこの子だ。お前なんでこんなところにいるんだ?」
小さな女の子は何も喋らずに立っている。
「そんな話し方じゃダメよ」
ルイナは女の子の前でしゃがんだ。
「どーしたの?お母さんとお父さんは?」
俺と話す時とは違い、とっても優しい声で女の子に話した。
しかし女の子はピクリともしない。
「あ~れ~?私の美声が効かない?」
「自分で美声とか言うな。俺が話すよ」
俺はルイナと場所を代わった。
「えっと、こんなところでなにしてたのかな?」
相変わらず女の子は黙ったままだ。
「別に俺たちは悪い人じゃないよ。確かにこのデカいおっさんは危険だけどね」
「うるせーよ」
まだ女の子は動かない。
俺はため息をついて、どうしようかと考えていると
「……なか」
「ん?」
「お腹、空いた」
女の子は口を開いた。
「あ、お腹空いてるの?」
女の子は頷いた。
俺はポケットを確認すると
「んーと、今は肉屋のおばさんから貰った飴玉しかないな。いる?」
再び女の子は頷いた。
「はい」
女の子は飴玉を取り左右の包装紙を引っ張って飴玉を口に入れた。
「……おいしい」
「よかった。でも飴でお腹は膨れないよな。商店街で何か買うか」
そうして俺とルイナは女の子を挟むように手を繋いで商店街を歩くことになった。ガルアは『子供の相手はお前らに任せる』と言って帰っていった。
「ん~、まだ10時半くらいだしお昼にはまだ早いよな」
「お腹が膨らさずに空腹を誤魔化すしかないわね」
「なら果物とかゼリーかな?」
「果物屋ならもうちょっと先ね」
「なら行くか」
そのとき、女の子が急に立ち止まった。
「どうしたんだ?」
「あれ、食べたい」
女の子の目の先にはアイスがある。
「まぁ、アイスでも空腹は誤魔化せるかな?」
「何味がいい?」
「……チョコ」
「わかったわ。アルトは何味がいい?」
「う~ん」
チョコはチョコだったが、抹茶をどう言うかで悩んだ。
「あのお茶の味の、緑色のやつ」
「抹茶?」
抹茶でいいのかよ。
「ああ。ルイナは何味にするんだ?」
「ストロベリーにしようかな」
そこもそのままなんだな。
ルイナはアイス屋さんにコーンでチョコ、抹茶、ストロベリーアイスを頼んだ。
「は~い、どうぞ」
「ありがとうございます。抹茶がアルトで、チョコが……えっと名前は?」
そういえば聞いてなかったな。
「私の、名前は……ヨミ」
「ヨミちゃんね。はい」
「いい名前だな。ヨミちゃんって」
「ありがとう。あとヨミでいい」
「わかったよ」
ヨミはチョコアイスを受け取って舐めた。
「美味しい?」
「うん、とっても」
「よかった」
俺たちはアイス屋の隣の屋根のある食事スペースの椅子に座った。
「アイスを食べるのも久しぶりだな~」
「そういえば夏休みの間もアイス食べなかったわね」
「やっぱりアイスは冷たくて美味しいな」
「そうね。ねぇ、私の食べる?」
「いらない」
「どーしてよ!こういうのは一口食べ合うのがルールよ!」
「そんなルールないだろ。俺はラブラブカップルがするようなことはあまりしないぞ」
「なんでよぉ~」
「ラブラブなことしたら周りから殺意が湧くし、俺自体も恥ずかしいからだ」
「そんなことで恥ずかしいなんて可愛いねぇ~」
「お前なんか一か月前は恋愛のこと言われたらバカみたいに恥ずかしくなってただろ」
「過去は過去よ」
「過去に目を逸らすな」
「二人は、付き合ってるの?」
アイスを静かに食べ終わったヨミが言った。
「そうよ~。ヨミちゃんは好きな人とかいるの?」
「いない。私は人から好かれないし」
「なんで?可愛いからモテると思ってたけど」
「私は、特別だから」
「それはどういう――」
「はいこれどうぞ~」
アイス屋のお姉さんがお茶を3つ持ってきた。
「あっ、ありがとうございます」
「そういえばヨミちゃん最初に聞いたけど、お父さんとお母さんは?」
「いない。私は捨てられたから」
「そ、そうだったのね。可哀そうに」
だからあんなところにいたのか。
「これからどうするんだ?」
「確かに行くところないわよね~」
「ならルイナの家に住んだらどうだ?」
「え⁉」
「ダメか?」
「ダメってわけじゃないけど」
「じゃあいいだろ」
「いいの?」
「ああ」
「仕方ないわね(せっかくのアルトとの二人きり生活がぁ~)」
「ありがとう」
「逆にヨミちゃんはいいの?私の家で」
「うん。ルイナお姉ちゃんは優しいから。アルトお兄ちゃんも」
「ふふ、ありがとう」
「さぁ次はどこに行こうかな」
「ん~、公園とか行ってみる?」
「そうするか」
俺たちはアイス屋にお礼を言って食事スペースを出た。
「あ、中学生からじゃないと飛べないんだっけ?」
「そうよ。だから家族でどこか行くときは飛ぶ機械に子供を乗せないといけないんだけど」
「ない場合は?」
「おんぶか抱っこ」
「ルイナ任せた」
「私力ないから」
「ガルアよりあるだろ」
「あはは、面白い冗談ね」
「いや冗談じゃな――」
強烈な膝蹴りが俺の腹に入った。
「ぐぁっ」
「冗談だよね~。私はか弱いアルトの彼女だからねぇ~」
「そ、そうでしたね」
「で、嫌なの?いつも私をおんぶしてるじゃない」
「覚えてるんだな、それ。嫌じゃないけど、周りの人がどう思うか」
「どう思うの?」
「女の子を連れ去ってるようにしか見えない」
「そんなことないわよ。女の私もいることだし大丈夫よ」
「まぁそうか。でもするならお姫様抱っこのほうがいいかな」
「どうして⁉」
ルイナが凄いビックリしている。
「いやおんぶだったら空中だとなんか危なそうだし、抱っこだとしがみついて疲れるかもしれないから」
「ならやっぱり私がおんぶする!」
そういうとルイナはヨミの前にしゃがんだ。ヨミはルイナの背中に乗った。
「よいっしょ」
「よし飛ぶぞ」
『この空を流れる風よ、この身を羽ばたかせろ』
俺とルイナは飛んで公園のほうに向かった。
「いちいち飛ぶのに詠唱魔法言うのめんどくさいな。言わずに飛べないの?」
「空を飛ぶ機械があれば言わなくていいけど、それくらい我慢しなさいよ」
「まぁ元の世界では飛べなかったし、飛べるだけいいか。ていうかルイナ普通におんぶ出来てるじゃん」
「い、いやこれでも結構」
「代わるか?」
「全然大丈夫!」
そんなにお姫様抱っこをさせたくないのかよ。
「ごめんね、重たくて」
「大丈夫よ、ヨミちゃん」
ルイナの手がプルプルしている。
「やっぱり俺が」
「大丈夫だって――」
その瞬間、ヨミがルイナの背中から離れていった。
「あっ」
「うぉっ!」
俺はギリギリヨミの手を掴み引き上げてそのままお姫様抱っこをした。
「ヨミちゃん大丈夫⁉ごめんなさい!」
「びっくりした。けど、大丈夫」
「ほら言っただろ。ヨミは大丈夫だったがルイナは大丈夫じゃない」
「ふぇ~ん。ごめんなさ~い。もう手に力が入らなくなったんです~」
ルイナは手を合わせて謝っている。
「今回は助かったものの次はどうなるか」
「気を付けます~」
「はぁ~」
「ルイナお姉ちゃんも謝ってるからもう怒らないで」
「怒ってはないけど注意だけな。まぁヨミが無事でよかったよ」
「うん。助けてくれてありがとう、アルトお兄ちゃん」
ヨミは俺の腕に掴まった。
「掴まってなくてももう落ちないから大丈夫だよ」
「掴まってたほうが、安心する」
「そうか。なら少し飛ばしてみるか。ルイナついてこいよ」
「うん」
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