第二十三話 新しい始まり

「……」


 家に帰ってきて、ルイナは晩御飯を作っていて、俺はリビングの椅子に座っている。家に帰ってる間何も話せずにいた。


 ルイナがてきぱきと風魔法で野菜や肉を切っている。油を使っているので今日はサラダと唐揚げなのだろう。


 はぁ~、どーすっかな~。カッコつけて『気持ちを俺に伝えてくれよ』とか言ったけどルイナも恥ずかしいよな。この際俺から言った方が楽なのかもしれないが。


「で、出来たから運んで」

「あ、ああ」


 一人の時間をあげたほうがいいのだろうか。


 俺たちは一言も話さずに晩御飯を食べ終わった。

 俺はいつもどうり後片付けをする。いつもソファーに寝そべるはずのルイナは自分の部屋にいった。


 これでルイナも少しは考える時間ができたかな。


「ルイナが出す答えってどんな感じだろうな~」


 普通の告白なのかな。やっぱりルイナのことだから変な告白の仕方するのか?


「考えててもこればかりは無駄か」


 食器を全部棚に戻すとルイナが部屋から出てきた。見た感じ風呂に入るようだ。


 俺の横を何も言わず素通りして風呂場にいった。

 その目は透き通っていたがただ何も考えないようにしてるだけだろうな。


「早く告白したほうが気が楽だと思うけどな。タイミング失うぞ」


 俺は独り言を言い、自分の部屋に行って椅子に座り顔を机に伏せた。


「はぁ~。というか早くしないと俺寝ちゃうんだけど」


 別に今日告白しなければならないというわけではないが、今は今日と昨日でかなりの疲労がきている。


 夏休みが終わってから疲れることばっかりだな。夏休みは気楽でよかったな~。毎日魔法の練習だけで、子供たちと遊んで、ふざけて楽しかったな~。


 冬休みまでどんな辛いことが待っているのだろうか。まぁ楽しかったらなんでもいいのだが。


 また元の世界に戻りたいとは深く思ってないが、誰か元の世界のやつと話したいな。家族でも友達でも。自由に行き来できたらいいのに。


 色々と考えていると、ルイナが風呂からあがってきたのが物音でわかった。


 下着とパジャマを持って部屋を出た。


 ルイナは自分の部屋にいったのだろう。

 そう思い俺は風呂場のドアノブを握ると


「ア、アルト!」


 いつの間にかルイナが部屋から出て近づいてきた。


「どうしたんだ?」


 ついに告白するのかと思い少し心臓が早くなった。


「え、えと、その、あの」


 顔が何か言う度に赤くなってきている。


「わ、私とつ、つ、つき」


 ゴクリ。



「つ、月が綺麗ですね!」


 はぁ~。


「ああ、確かにお前と月は綺麗だな。月は見えねーけど」

「そ、そんな綺麗だなんて」


 なに照れてんだ。はよいえ。


「もう一回頭冷やして考え直せ。次はちゃんともっと覚悟ができて言えよ。そんなに考えなくていいって言っただろ。無駄に変なこと考えんなよ。大丈夫だから」

「う、うん。わかった、わ」


 俺は風呂場に入って服を脱ぎ風呂に浸かった。


「まさかあんな典型的なことをするとはな」


 最後の一歩が出なかったか。


「次にまた言うっていうのも辛いよな」


 頑張れよ、ルイナ。



 俺はしばらくして風呂からあがりパジャマをきて風呂場を出た。




 リビングに戻るとルイナが椅子に座っていた。


「アルト」


 ルイナは立ち上がった。俺はルイナの近くにきた。


「大丈夫か?」

「うん」



 ルイナは深呼吸をすると


「あのね、アルト」

「うん」


「私、アルトのことが、す、好きです!付き合ってください!」



 ルイナが顔を赤らめて、目をつぶって精一杯言った。今も体を震わせている。


 俺の答えは


「もちろんだ。俺もルイナのことが好きだからさ」


 それを言った瞬間ルイナは目をあけて俺に飛びついてきた。


「うぉっと」

「やった!やったよ!言えたよ私!」

「ああ、頑張ったな」

「よかった!嬉しい!私のこと好きでいてくれて」

「俺も嬉しいよ」


 約一ヶ月、ほぼ一緒にいて好きにならないわけないよな。


 ルイナは俺から離れると


「そ、それで昨日の賭けの話なんだけど」

「あの何でも命令できるやつか」

「そうそう。それで二つ目の命令よ。私がデートしたいときにいつでもデートする」

「いつでもは難しいけど、なるべくそうするよ。というか彼氏として当たり前だろ。本当にそれでいいのか?」

「まぁいいのよ。細かいことは気にしなくても」


 ルイナはステップで冷蔵庫に向かうと中から酒を取り出した。


「昨日は飲めなかったから今日はたくさん飲むわよ!」

「明日学校あるのに大丈夫か?」


 基本的に月曜日から木曜日には飲まないようにしているのだが。


「今日はお祝いだからいいでしょ!」

「仕方ないな」

「やった~!」


 ルイナは風魔法を使って酒の缶10本、机に運んだ。


 こ、こんなに飲むのか。


 俺は3本が限界って言ったから、7本。いつもより1本多めだな。


「本当に仕方ないな~」

「さぁ、私とアルトの付き合いを祝して、乾杯!」

「はいはい」


 告白したあとはもう恥ずかしくないんだな。まったくこいつは。

 でもいつもどうりのルイナに戻ってよかった。今日は眠いが頑張って飲むか。


「っぷは~、やっぱりぃ一日ぶりのおしゃけはおいしぃーわにぇ~」

「一気に飲みすぎんなよ」

「わかってるってぇ~」



 俺とルイナは夜遅くまで飲んだ。

 俺はうとうとしながら机で寝そうになっていたルイナを背負ってルイナの部屋のベットに寝かせた。


「アルトぉ、好きぃ」

「わかってるよ、また明日な」


 俺は机に散らかってる酒の缶をゴミ箱に捨て、電気を消して自分の部屋のベットに入った。


「明日も楽しみだな」


 これが俺の新しい異世界生活の始まりだった。

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