ゲームに飽きたから異世界に行ってみた。

イル

第一章 異世界生活

プロローグ


 ――高校2年の夏休み前日、俺はゲーム好き友達と電車の中で夏休みのことやゲームについて話をしていた。


「あぁー、やっと夏休みだぁー」


「夏休みはみんなでゲームしまくるぞ」


「ゲームパーティーだぜ!」


 電車内は同じ高校の学生だらけでみんな夏休みのことばかり話していた。


「で、なんのゲームすんの?」


 そんな俺の質問に友達は


「LLJ-Xに決まってるだろ!」


「やっぱりか」


 LLJ-Xとは、パソコンでできる昔から人気のRPGゲームLLJの最新作だ。


 この最新作は元からあるストーリーをクリアするとあとの物語は自分か他人が作るというゲームだ。詳しくいうと、あとの物語は誰でも作ることができてクエストも難易度と敵を決めて作ることができ、世界中の人が作った世界を何個でも何度でも楽しめるゲームとなっている。


 今までのシリーズと仕組みが違うのでそれこそ批判もあったが、売り上げは販売から2か月過ぎた今でも衰えていない。


 元のストーリーの続きのような物語や、キャラの昔の話などの二次創作のようなものを作る人もいれば、難しいクエストだけを作る人もいる。他の人が作った世界をクリアして違う人の世界に行ってもレベル・アイテムはそのまま持っていけるのがこのゲームのいいところだ。


 例えば、難易度が高く昔クリア出来なかったところも他の世界で鍛えてクリアしたり、ある人が作った世界にはあるアイテムが存在してなくて、他の世界にいかないとクリアできないというところだ。


 友達とはクエストを作りあって攻略しあうということをやっている。


「『やっぱり』って、なんで残念そうなんだよ!」


「だって俺が出したクエストお前ら誰もクリアできないじゃん」


「だからクリアするためにみんなでレベル上げすんだろうが」


「RPGだからみんなでって言っても結局一人だけで頑張らないといけないけどな」


「みんながいたほうが楽しくできるだろ!」


「どうやったらそんなに強くなれるんだよー」


「日々の努力と効率を考えることだな」


 そう俺はこのゲームを極めてしまった。レベルもカンスト、武器や防具、ジョブとスキルもほぼ手に入れ、最後まで強化した。どんな高難易度なクエストもクリアできるほどまでになった。


 今は負けず嫌いの友達のためにクエストを作ってクリア出来るか、出来ないかという勝負になっている。もちろん高難易度のクエスト作れば簡単に勝てるが、相手が負けず嫌いなので相手にあった難易度のクエストを作っている。


 ちなみに自分でクエストを作るには、そのクエストを自分で一回クリアしないと他の人は遊べないのだ。




 家に帰った俺は服を着替えた。


 全身黒い服を身にまとった俺はクローゼットの奥のほうから細長く大きい段ボール箱を出した。中には模造刀が何本か入っている。そして目貫が赤く、柄巻が黒い模造刀を一本だけ取り出し鞘から出して、手の甲を鍔から切先まで力を入れてなでるようにした。そして構えて、振った。目の前に敵がいるかのように。


 俺はいわゆる厨二病というやつにかかっている。それもかなりの。


「深淵の闇よ、深紅なるこの紅蓮の刀を纏いて、全てを灰に化せ、闇炎の刃!」


 これが俺の一番の必殺技だ。俺の中では俺は魔法剣士という設定だ。『闇炎の刃』のあとになにか入れたいがまだ決まってない。


 いつも厨二病というわけでなく一人で家にいるときにしか厨二病にならない。隠れ厨二病というのだろうか。なので友達にも俺が厨二病ということは知られていない。模造刀もクローゼットの奥に隠してあるし、学校などでは暇なときは自分が戦ってる妄想をするくらいだ。


 そんなことをしていて恥ずかしくないのかと聞かれて恥ずかしくないといえば嘘になるが、一人でいるとさほど気にしない。幼稚なことをしているということはわかっている。


 しばらく魔法を使いながら刀で敵を斬る妄想をしていたが現実でそんなことができるはずもない。どんなに願っても魔法や本当の剣術は使えない。


 俺はため息をつき


「剣と魔法が使える異世界とか行きたいな」


 そんなことをつぶやきながら俺は普通の服に着替えて、模造刀を収めた。


 スマホから通知の音が聞こえて見てみると友達から


『今から通話しながらLLJ-Xしようぜ』


 とグループのLINEが着ていた。断る理由はないが、俺がやってもすることがないし、やりこみすぎて飽きてきているくらいなので


『用事できたから無理だわ』


 と言っておいた。するとみんなOKなどのスタンプを送ってきてくれた。そういうところはすぐ承諾してくれるいい友達だ。


 そもそもゲーム全般をやりこみ過ぎて〈ゲーム〉というものに飽きてきてしまっている。


 なにもすることがない俺はしょうもない調べものをしていた。


「『異世界の行き方』っと」


 完全にダメもとだが暇なので検索してみた。だかやっぱり都市伝説系だけだった。


「まぁそうだろうな」


 なにもすることないし模造刀でも見ていようかな。


 そう思ったそのときさっきまで見ていた都市伝説サイトの端っこに小さく『異世界に行く』と書いてあることに気づいた。興味本位でそこを押してみた。すると画面が黒くなって動かなくなった。


 マズい、ウイルスにかかったか?と思ったそのとき、俺の体は浮いて、黒いパソコンの画面に吸い込まれていった。


「ッ⁉」


それから俺は気を失ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る