瞳の中の軌跡
五十嵐葉月
第1話『人助け?いいえ、サンドバッグです』
『青春』とは嘘であり、悪である………。
あぁごめん!!俺が悪かったから戻るボタン押さないで!!ほんの出来心だったの!!一度だけ言ってみたかったんだよ!!お願いだからパクリって罵らないで!!
………コホン。では、気を取り直して、青春って何だと思う?そもそも青い春って何だよ。何で春が青いんだよ。普通春のイメージって桃色でしょうに。青い春って、一日中雨でも降ってんのかねぇ?
いや、分かってる。俺が全く検討違いな事言っているのは十分に理解しているとも。けどやっぱ、誰もが一度は思う疑問じゃん?聞きたくもなりますよ。
でだ、結局青春って、何がどうなったら青春なのだろうか。
学校で懸命に部活動に励んだら青春になるのか?恋愛をすればそれは青春と呼べるのか?
よしんばそれら全てを『青春』とカテゴライズしようか。
ならば、俺はどうなんだ?
自慢ではないが、一般人は絶対に持っていないモノを俺は持っている。それは身体的なモノだ。周りはそれを知れば、高確率で俺を化物呼ばわりするだろう。
だが、俺はそのせいで、一般人とは少し違った人生を歩んでいる。そんな人生を青春と呼べるのか?
答えは誰にも分からない。
だから、確かめてほしい。
俺だけではこの疑問は手に負えない。誰かに確かめて貰わないと駄目なんだ。
これからここに残すのは俺の人生だ。
ほんの少し奇怪的でほんの少しアグレッシブな人生だったと俺自身は思っている。だが青春だったのかと聞かれれば答えに詰まる。
だから、実際に見て教えてほしい。
俺の人生が『青春』と呼べる品物だったのか。
俺の人生は間違っていなかったのか、と━━━。
ある日の学校の帰り道。一人の女性が男三人に絡まれていたとしよう。その場合、世の中の男性諸君はどうする?
警察を呼ぶ?見て見ぬ振りをする?殆どの人達が自分が助けに入ろうなんて思わないだろう。俺もそうだ。わざわざ面倒事に首を突っ込んで痛い目を見る奴がこの世界の何処にいるっていうんだ。
……………少なくとも先程まではそう思っていた。
この街の高校、遠山学園に通学する一年生の俺こと
本当にもう何で突っ込んじゃったかなぁ。放っておいて帰る予定だったのに、どうしてこうなった?
「あ、あの………」
俺が粘り強く抵抗したお陰か、幸いにも男達は女性を見逃して何処かへ去っていってくれた。
いやマジで助かった。あれ以上ボコられてたら今頃死んでるぜ。
「だ、大丈夫ですか……?」
大丈夫に見えんなら貴女の目は相当イカれていると思いますよ。良い眼科紹介しましょうか?
俺は痛む体を無理矢理起こして立ち上がり、学生服についた砂埃を払う。
「す、すいません………助けて頂いて………」
ただサンドバッグにされてただけなのに助けたなんて到底言えない。この女性、俺に止めを刺そうとしてんのか。
黒髪のショートヘアーに整った顔立ち。人目見ただけで美人と分かる。おまけにスタイルもボンッキュッボンときた。絡まれるのも分かる。そして服装はオフショルダーとホットパンツという中々露出が高い服を着ているから、これじゃあ男を誘うばかりだな。
「大丈夫です。貴女の方こそ怪我は?」
「お陰様で大丈夫です……ありがとうございました………」
「その割には泣いてるみたいですが?」
俺がこの女性を助けに入った理由。それが彼女の涙だ。
別にヒーローを気取ろうって訳じゃない。ただどうも昔から女の涙には弱いんだ。我ながら損な性格してるぜ。
「いえ、この涙はまた別の事で………」
「へぇ。カレシにフラれたとかそんな感じですか?」
「ッ!」
あっやべ。これ確信ついたパターンだ。やっちまったぜ。
「………はい、さっきフラれちゃって………それで泣いてたら絡まれちゃって………」
「答えたくなかったら答えなくて良いのに」
言ったの俺なんだけどね。
カレシにフラれて男共に絡まれてか。それは災難なこった。まぁ俺には何の関係も無いけど。ただ無駄に傷を負っただけだったし。これが骨折り損の草臥れ儲けってな。やかましいわ。
「兎に角俺は帰るんで、あとは一人でごゆっくり」
「ま、待って下さい!」
何だよもう。早くこの場から消え去らせてくれよ。周りの人達がすっごい俺を見てんだよ。これ以上俺に恥をかかせないでくれ。
「あの………」
女性は何かを言いそうにしている。どうせあれだろ?『助けて頂いたお礼がしたいです』とかだろ?んなもんいらねぇし。見返りを求めて助けたんじゃないっての。
「言うならさっさと言ってくれません?」
「ひゃうっ……」
ひゃうっなんて言ってないで早くしてくれ。
「こ、怖いんで、家まで、送って頂けませんか………なんて………」
「…………………………はい?」
お礼なんてそんな軽いもんじゃなかった件について。
結局着いてきてしまった。俺はどうしてこうも女に甘いのか。勘違いするな。格好つけてるわけじゃない。寧ろ自分のこの性格を煩わしく思ってる。
「す、すいません………送って頂いて………」
「貴女が頼んできたんでしょうに」
「すいません……今は一人が怖くて……」
「あんなことあった後じゃあ仕方無いと思いますが、流石に怪我人に付き添いさせるのは鬼畜だと思います」
そしてちゃんと付き添ってあげる辺り、俺も自分に鬼畜だな。
「あの、お名前を聞いても?」
「あぁ、そういえば言ってませんでしたね。俺はこの街にある高校の遠山学園に通学しています。一年生の間宮優奈といいます」
「私は
「大学生って、もしかして遠山市立大学ですか?」
「はい。よくご存じで」
「俺も大学はそこにしようと思ってるので」
こんなところに大学の情報源があったか。これはラッキーだな。今の内に親睦を深めておくのも一興かな。
「質問しても良いですか?」
「どうぞ」
「間宮くんはどうして私を助けてくれたんですか?」
「それですか。ぶっちゃけると俺にも分かりません。最初は見捨てるつもりでいました。ですが気がつけば体が勝手に助けに行ってたんですよね。変です」
「けど私は救われました。本当に感謝してます」
止めてくれ。俺なんてサンドバッグになってただけだって。
「私なんてフラれただけで泣いて、絡まれたって間宮くんが助けてくれるまで何も出来なかった」
「まずあの状態で抵抗出来た方が凄いですけどね」
そんな女いたら俺だったら二度と近づかないけど。だって怖いし。
「まぁ何はともあれ、今こうやって無事に家に向かえているし良いじゃないですか。さっきまでの事は忘れましょう」
「間宮くんは無事じゃないですけど……」
「そこは突っ込んじゃ負けよ♪」
「プッ、何ですかそれ。間宮くんにはそんな喋り方似合わないですよ。アハハッ」
笑わせるつもりでやってみたが上手くいったみたいだな。てかこの人笑うとスゲェ可愛いな。女って笑うとこんなに良いんだな。涼矢も笑うとこんな感じなのかな。アイツ全然笑わないし。
「間宮くんって面白い人ですね」
「元カレさんは違ったんですか?」
「はい。彼はどちらかと言えば格好良いを目指していた感じですね」
「でも実際は?」
「ん~、今思うとそこまでだったかもしれませんね」
「ひっど~」
「えぇ~!言わせといてその反応の方が酷いですよ~!」
歩いている内に気持ちの整理がついてきたのだろう。彼女の住んでいるアパートに着く頃には彼女の表情に未練は何も残ってないように見えた。それに道中に笑顔も沢山見せてくれた。眼福だった。
「ここが私のアパートです。送って頂きありがとうございました」
「じゃあ俺は帰ります」
「良ければ部屋に上がっていきませんか?」
「遠慮します。傷心状態の女性の部屋に上がるのは気が引けます」
「でも手当てぐらいはした方が良いと思います」
「お構い無く。怪我は慣れてるんで。それと余計なお世話かもしれないですが一つアドバイスを」
「?」
「男の立場から言わせて貰います。あまり異性は信用しない方が身の為です。特に今回のように見ず知らずの男に易々と住所を教えるなんて論外。あと元カレ。男ってのは意外と姑息です。別れたといっても何かしらの理由をつけてまた接近してくる可能性があります。そういうのには重々気を付けるように」
少し咎めるように彼女に釘を刺す。西園寺さんはキョトンとしていたがすぐに柔らかい表現に戻って頷いた。
「分かりました。今後気を付けます。アドバイスありがとうございます」
「じゃっ、今度こそさようなら」
「また会えますか?」
「まぁ住んでいるところが結構近くなんでね。会えるんじゃないですか?運が良ければの話ですけど。次は良いカレシさん見つけて幸せになっていることを願います」
俺は背中を見せ、手だけ振って自宅へと歩を進めた。時間は結構遅くなってしまったが、門限も大して決まってないし大丈夫だろ。
と思っていたが━━、
「しまった!今日夕飯当番は朔だった!早く帰らないと朔が泣いちまう!!待っててくれマイプリティエンジェルシスターよ!!」
俺は痛みなど忘れて全力疾走で家に向かったのだった。
「間宮優奈くんか。覚えておこっ♪」
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