林檎と謎。

遊馬楓

前日談

 人が死んでいた。

 確実に、なんの迷いもなくそれは死体だと断言できる程の冷たさを帯びていた。

「これは、確実に死んでいるね。」

 死んだのは、都内市立高校二年の榎並林檎だった。死体の状況は、胸部を包丁で刺され即死。運悪く急所に当たってしまったことが死を早めるきっかけいなっていることは明らかだった。その他にも手首の痣や、所々にある擦り傷あることから、何者かと争ったという事も分かる。

「困ったことになったね。」

 確かに学校の図書館で人が死んでいると言う事実は困ったことかもしれない。でも、だがしかし、こんな状況において困ったと言ってしまう事は不謹慎だと言われても仕方がないだろう。少なくとも僕にはそんなことを言える度胸はないだろう。普通の高校生は死体を見たと言うだけで、それこそ自殺をしてしまいそうなトラウマになってしまうものだと思う。

 しかし、たかが十六年とそこらしか生きていない僕だけれども、死体を見たことは初めてではなかった。過去に一度だけ見たことがある。小学校四年生の時に、当時高校生だった姉が自殺した時だ。姉が大好きだった僕はその時のことをよく覚えている。首の周りについた紫の後、ギリギリまで酸素を求めたことが分かる苦しそうな顔。そして、姉の死体にも手首に痣ができていた。当時警察は、事件とは関係がないと言われ、一掃されてしまったのを覚えている。

「神代先輩、あの手首の痣ってなんの後なんですか。」

「ん?手首の痣。本当だ、よく気が付いたね。これは多分何か紐のようなもので縛られた跡だね。」

 紐のようなもので縛られた・・・。つまり何者かが縛りつけたととって恐らく間違いないだろう。と言う事は、争った跡に縛られたのか。それとも縛られた後に争ったのか。前者は何の矛盾も不可解さもないだろう。しかし後者には、なぜ紐を外したのかという疑問が残る。いや、この死体の状況を見る限り、前者の可能性も少ない。死因はナイフであり、直前まで争った跡が体の所々に刻まれている。つまり、わざわざ榎並さんを紐で縛る理由が無いのだ。そうなるとますます疑問になってくる。

「ちょっと、不思議ですね。この痣。僕の考えだと、わざわざ紐を使うような所が思い浮かばないんですけれど。」

「確かに、不思議ではあるよね。紐もここにはなさそうだし。犯人が持って帰ったのかな?」

 神代先輩はそう言って、怪訝そうに溜息をついた。先輩はあんまり動揺していないように見える。見えるだけかもしれない。この先輩は基本的に本心を隠したがるような人なのだ。きっと僕の事を安心させる為に平常心をふるまっているのだろう。

「どうしよっか。とりあえず、警察に電話するね。それまで、この部屋の物にはあまり触らない方が良いかも。犯人に繋がる重要な手掛かりを汚してしまいかねないしね。」

そういって、ポケットから携帯を取り出すと手慣れた手つきで警察に電話していった。

「あと、ニ十分後に到着するみたい。」

 状況を素早く説明し、警察への電話を終え、再びしまう。

「先輩って、何だか慣れていますね。こうゆう状況に。」

「えぇ?そんなこと無いと思うけどな。少なくとも私だってね、少しは動揺してるんだよ。顔に出にくいだけ。」

 そんな風には見えませんけね。そういうと神代先輩は、苦笑いをした。

「人間が死んだってさ、そんな珍しい事でもないんじゃない?日本では毎年変死者だけでも15万人いるらしいけれど、このくらい死んでればさ、生涯絶対に誰かの死体は見るんじゃないかなぁと思うよ。それに人間はいつか死ぬんだし、ほら、自然の摂理だよ。そんなことに対して一々驚くのはどうかと私は思うけどね。」

「随分さっぱりしてますね。そんなことを言われたとしても、やっぱり僕なんかは思っちゃうわけですよ。人間が死ぬところを何とも思わない人間はそれだけで怖いってね。こういうのはきっと自然の摂理なんかでは納得できない範囲なんですよ。」

 だから、僕はきっと今の先輩が怖いのだろう。死体を見ても何とも思わない人間は怖い。それは、良心というものが圧倒的に足りていないような見えるからである。良心が無い人間は何をするか分からない。これもきっと僕の勝手なイメージにすぎないのだろう。何せ、犯罪と言うのは良心で起こりうるものでもあるからだ。だから僕が勝手に怖がっているだけだ。こういう決めつけは良くない。絶対、いや多分良くないのだ

「ところでさ、君は犯人は誰だと思う?」

「なんですか?探偵ごっこですか。楽しそうですけど、そういうのは、警察の仕事なんじゃないんですか。」。

「警察の仕事だよ。でもさ、楽しそうとは思ったわけだよね。だったら警察が来るまでの暇つぶしとしてさ、雑談感覚良いの。ちょっと推理してみない?例えば、犯人はどうやって図書館の中に入ったのか、とかさ。?」

「それは、普通にドアからなんじゃないんですか。ってあれ・・・」

「そう、そんなんだよね、ここって鍵開けたの私なんだよね。つまりあそこからは入れない。」

 この図書館は学校内においてもあまり存在感がない。古い外見と、行き届いてない手入れのせいか人があまり寄り付かないのである。そのため、この図書館は防犯対策も疎かになりがちである。だから、今日僕が先輩と来た時も、鍵は開いているだろうと思ったのだ。しかし、結果は開いておらず、先輩が鍵を職員室まで取りに行ったのである。

 なぜ、気づかなかったんだろう、と今になって後悔した。つまるところ、これは完全に密室事件だった。

「となると、窓から侵入したとか。」

「無理だろうね。高すぎる」

「梯子を使えば届くのでは。」

「もし、そうだったとして彼女はどうやって入ったの?まさか、自ら入ったとでも言うつもり?」

「少しおかしい点もありますが、でもそうとしか考えられないのではないのでしょうか。」

 そもそもこの図書館には他に侵入する術がないのだ。

「うーん。可能性としてはその考えが一番大きいと思うんだけどね、でも、実際どうだろう。それって結構ン投げやりな答えだと思わない?私は、もう少し他の可能性も模索してみるべきだと思うけどな。」

 彼女は、少し困ったようにはにかんだ。なぜだか分からないが、彼女自身、自分で侵入したと言う選択肢が一番現実的で最適だと言う事に気づいてはいるが、納得したくないような面持ちが伺える。

「ほかの可能性ですか?そうですね。あるとするならば、もう一つ別の、例えば予備の鍵なんかを持っていて、それによって入った。なんてのはどうです?」

「つまり、中から鍵を閉めたと?」

「そうなってしまうんですよね。無理があるのは分かっています。密室の状況を作り出す意味がそもそも無いですし、ここの図書館は誰も来ないので人が来る心配をする必要もなさそうですもんね。」

「ていうかさ、予備の鍵なんてないよ。」

「何故そう言い切れるんですか。そんなの分からないじゃないですか。」

「分かるよ、私ね、昔この図書室の鍵を無くしちゃったことがあるんだ。その時先生にここの鍵は一つしか無いんだからって怒られてさ、一所懸命探したんだよね。」

「そんなことがあったんですか。予備の鍵が無いなんて不用心にもほどがありますね。」

「確かに、なんで無いんだろう。あ、でも私が鍵を無くした時点では無かったけれど、今は合いカギを作ってるってかもしれないね。断言はできなかった。ごめんごめん。」

 全く申し訳なさそうではないけれど、謝るポーズをつくってきた。なんだろう、謝られてるのに反省感が全く感じられない人ってのはこういう人なんだろうと思い知った。もしかしたら本人は一生懸命に謝っているのかもしれない。だから、本当に悪いと思ってるかどうかは余り詮索をいれないで頂きたい。先輩はこういうキャラなのだ。ん?どういうキャラなんだ。

「なんか失礼な事考えてないでしょうね。私別に本気で謝ってるわけじゃ無いんだけど。私ってさ、適当キャラに属していると自分の中で思っているので、そこのところは今後ともよろしくして貰えると助かるかな~。」

 適当キャラだったのかよ。なんだよ。チャラく見えるけど本当は頭の中で色々考えてる人かと思っちゃったよ。普通にヤバい奴だった。

「まぁ、そのことに関しては何も触れませんよ。まぁお互い心の底から謝れるように頑張りましょう。」

「何?君謝るの苦手なの。勘違いしないでほしいんだけどさ、私別に心の底から謝れるようになりたい訳じゃない。正直、適当でも謝ってるふりでも全然かまわないよ。私は困らないし。」

 凄い先輩だった。ここまで真っすぐな意見を言われると、まぁいいかと言うような気持が沸いてきてしまうのは心理なのだろうか。

「それでさ。話を戻すけれど、鍵が二つあるっていう仮説を立ててみるとして、二つあったら、それって犯人は先生ってことにならない?」

「そうですよね。普通予備の鍵なんか持ってる人って磯長先生くらいですもんね。」

 そうなると犯人はこの図書館をよく知っている磯長先生になる。

 磯長匠気。年齢未詳。噂によると30代前半。担当教化は国語でこの図書館の管理人でもある。堅実で誠実な人柄で有名であり、僕もよく喋ることがあるのだが、到底人を殺すようには見えない。まぁ、殺人事件というのは大抵の場合見かけによらないのだが。

「じゃあ、犯人の目星は磯長先生と言う事で大体確定ですね。」

「おっ何々。あの人はそんなことをする人じゃありません。って言わないの。君は冷めてんだか薄情なんだか。それとも感情が欠落しているのかな。」

「犯人は先生なんて言ったのは先輩じゃないですか。先輩こそ人を疑うことに対して躊躇が無いのではないじゃないんですか。」

「どうだろう。今のは欺瞞だと思うけどね。私は先生だと思っただけだけれども、君は磯長先生だと決めつけた。この差は大きいと思うよ。悪いけど、私は君みたいに犯人を推測だけで確定なんてしない。そういう人間だよ。」

「どういう人間かは知りませんよ。今日会ったばかりですしね。」

「あはは。確かにー。じゃあ私もあんまり詮索すべきじゃなか。」

「そうしてくれると助かりますよ。お互い何か大切な感情が欠け落ちていることが分かりましたからね。あまり深傷を負いたくはないでしょう。これ以上互いの性格についてあれこれ言うのはもう終わりです。」

 このことに関して言うと、僕が傷を負いたくないと言う面より、先輩の闇をあまり露わにしたくないという面の方が勝っていると言う事が大きいのだが。人間関係というのは絶対に立ち入ってはいけない領域があるわけで、それをこうして明確にしておくことは人と対話するにあたって何より大切なのかもしれない。

「で、えっと磯長先生だっけ?彼が犯人であるかもしれないという証拠についてはもう少し調査するべきだね。だいたい、予備の鍵があるなんてのも私達の推測に過ぎない訳でしょ。君の確定を確信に変えるために、色々探してみない?」

「探すって予備の鍵ですか。それって職員室に侵入するってことですよね。難しそうですけど大丈夫ですか。」

「違うよー。違う違う。そうじゃなくていさ。いや、予備の鍵が見つけられたらそれが一番良いんだろうけどさ。それって無理じゃない?自分が犯人である決定的な証拠をさ、見つかるようなところに置いてくかな?私が犯人だったら肌身離さず持ち歩くか、処分するか。それとも家に隠しておくかの三択だな。処分するってのか一番現実的なんじゃないかな。そしたら、迷宮入りってことになりそうな予感もしなくないよね。」

「処分ですか、確かにしてそうですよね。考えてみれば職員室に忍び込んで探すってのもそんなに現実的ではないんですよね。なんやかんや職員室って先生が沢山いるだけに生徒がいると目立ちますし、先生がいない時間帯に忍び込むのもそもそもそんな時間帯があるかって感じですものね。それじゃあ何を探すんですか。目撃情報とかなら犯人の証拠になりそうですよね。殺されたのは放課後ですし、もしかしたら何人かの生徒は目撃したんじゃないんでしょうか。」

「目撃情報かー。それも良いね。でも、図書館の中に入って行ったのを見ましたよなんて情報は得られないと思うけどな。ここ誰も来ないし。」

「でも、榎並さんがどこに誰と歩いていたとかなら十分犯人に繋がると思いますけれど。」

「んー。そういうのはさ、きっとなんにもならないと思うよ。だって、犯人と榎並さんはここで待ち合わせした可能性が強い。そうでしょ?二人でどこかに行くのを目撃されるのはちょっとリスクがあるしね。」

「確かに。だとすると本当なにを探すんですか。皆目見当もつきません。」

「嘘、見当はついてるはずだよ。君は榎並さんの死体を見た時何を思たっけ?」

「争った跡がはっきりとあると思いましたよ。」

「そーれーじゃーなくて。他に思ったことがあるでしょ?何かを不思議に思っていなかったけ。」

「不思議に?あぁ、もしかして手首の痣ですか。と言う事は、ロープとかですかね。」

「正解。おめでとう。と言う事で最初の疑問に戻るけれど、君はロープと言ったけど、この痣は何か紐のようなもので縛られた跡ってことで意義はいないね。」

 意義はない。それよりも、僕はロープだと言ってみたけれど、先輩の言い方をみてみるとまるでロープ以外にも縛るものはあるだろうと言わんばかりの言い方に聞こえてまう。これは僕の勝手な推測だろうか。それとも使ったものはロープではないのか。

「先輩は、紐はどこに隠されていると思いますか。僕には検討がこれっぽちもつかないのですけど、処分したって考えた方がまだ上手くいきそうだな、てくらいですね。」

「私は、まず隠した場所よりもどうやって入手したのかを考えてみるべきだと思うな。隠せる人間は多いけれど、そもそも入手できると言うか、入手しようと考える人間って案外少なくない?」

「入手しようと考える人間?それこそ分かりませんよ。そんなの殺人をしようと考えだしたら、誰でも考えるんじゃないんですか。相手の動きを封じられるのならそれに限ったことはありませんし。」

「相手の動きを封じるってのはさ、弱い人間が強う人間に行う行為じゃない?厳密にはそうじゃないこともあるけどさ、今回の場合は包丁を用意してた。相手は女子生徒。しかも、榎並さんって体付きを見る限り文化部だったんじゃないかな?バリバリの運動部ってことはなさそうだよね。じゃあさ、そんな抵抗されても何とか力でねじ伏せようと思えばできる相手に対して、わざわざ証拠にもなり得る犯行道具を増やすかな。あくまで推測だよ。もしかしたら、犯人が脅すつもりで包丁を持っていき、誘拐する予定だったのかも。なんて話をしだしたらこの考えははなから意味が無くなるからね。」

「なら、犯人は女性だったって事ですか?」

「その可能性もあるのだけど、ほら鍵を持っいるのって磯長先生だけでしょ。確定ではないけど。」

「なるほど。矛盾しちゃいますね、磯長先生が相手の動きを封じるに足る理由があればいいと言う事ですか。」

「そう。逆でもいいと思う。他の誰かが鍵を手に入れることができる理由、とかね。」

 他の人が鍵を手に入れる方法。本人に直接頼む、それかこっそり持ち出す。この二択だろう。本人に直接頼む方が割合リスクが低いのではないだろうか。磯長先生に何か理由を付けて鍵を借りる。でも、これだと犯人が誰なのかが一発で分かってしまう。だから、直接鍵を借りる場合には共犯になってもらう必要が発生するのだ。それが今回の一番の問題点であるだろう。

「さて、ここでも問題です。殺人を犯す際、どうしても共犯になってもらうために必要な人物がいます。あなたなら、どんな口実を使って共犯にさせますか。」

「僕なら、そうですね、相手の弱みを探しますかね。それを口実に協力させます。」

「私なら大金を積む。世の中の大半のことはお金でどうにかなるからね。でもこれにはお金が必要。つまり、お金を持ってる人が怪しい。」

「ちょ、ちょっと待ってください。そんな短絡的な考えで犯人を決めるんですか。僕は反対ですよ。そもそも、何でもかんでも世の中がお金だけでどうにかなるという考えが浅はか過ぎるのでは。」

 僕は即座に反対意見を述べる。確かに殺人事件が起こる理由の中に、お金関係は付き物だが、それだけで犯人の目星を狭めてしまうと、生徒はおろか、教師でさえ極一部の数人しか残らないからである。それは、まだ推理し始めたこの段階に犯人の目星をそこまで狭めてしまうと、もし間違った推理をしていた場合、後々引き返すのに苦労することが目に見えているからである。

「さっき磯長先生が犯人だと決めつけで語っていた人間がよく言うよね。」

先輩は僕の顔をまじまじ見ながら笑っていた。まるで、僕がこう思うことを分かっていてさっきの言葉を言ったかのように。いや、多分これが言いたかったのだろう。僕がブーメランように自分の言葉が返ってくることを狙っていたのだ。この先輩ならきっとやりかねる。今日知り合ったばかりで先輩のことはよく知らないが。

「冗談だよ。いやね、君が犯人を決めつけてた時のように、私が犯人を決めつけたら君は私の人格を疑うのかっていう実験をやってみたかっただけなんだよ。結果として私の人格につては何も言わなかったけど。」               「もうお互いに、相手の人格について言うのはやめようってさっき言いましたからね。僕だってそれくらい覚えてますよ。」

「そっか、じゃあ次はもっとバレないように実験するね。」

 次って、まだやるのかよ。懲りない人なんだか、人を弄ぶのが好きなんだか。

「先輩が、お金の持ってる人が犯人だと言っていた意見は無しと言う事で良いですね。」

「お金なんて借金すればいくらでも用意できるぢね。殺したいほどの人を殺すためには、どんなことも厭わないって人じゃないと殺人なんて犯さないよね。だって、殺人ってこれから死ぬまでの月日を全部譲ここと一緒だから。」

「死ぬまでの月日を全部譲った?誰にですか。」

「被害者だよ。被害者にこれからの自分の時間、または命と引き換えに相手に死んでもらう事が殺人。だから、お金目当てで殺人をしてしまう人ってのは本当に理解の範疇を超えるよ。人生を賭けるまでお金を手にしようなんてやってることが矛盾してない?時間とお金と後、精神的安定。この中のどれか一つでも欠けていたら、きっと幸せな人生を歩んだとは胸を張って言いにくいだろうしね。」

 きっとその人達にとっては、幸せなんかよりもお金を持つことの方が大切なのだろう。そもそも幸せの在り方なんて人それぞれだと言う事を忘れてはいけない。世の中には、お金を持っている。ただそのことが自身を幸せにするやつだっているのだ。

「なるほど、この事件の犯人はお金目当てではないと。なら一体何が目的なんです?何が目的であれば榎並さんを、榎並林檎を殺すに値するものになるのですか。」

「なんだろうね、そこが全く分からないのよ。私は彼女のことをよく知らないし、彼女と犯人の関係性も知らない。勿論彼女と磯長先生の事もね。そんな知らない事だらけの私達が、犯人を現場を見ただけで当てようなんて少し、無理があったと思わない?私はそう思うな。」

「急に何ですか。推理ごっこを始めようなんて言い出したのは先輩ですよね。やめるんですか。それとも事情聴取にでも行くんですか。どっちにしろ乗り掛かった舟ですからね、最後までお供しますとも。」

「うふふ。それは頼もしいね。君が一緒に推理ごっこをやってくれるっていうなら、私もここでやめる訳にはいかないよね。でも、だが、しかし、一体全体何をすればいいのやら。今解かなくては先に進めなそうな問題はね、手首の痣が何でいつ縛られたのか。それと、図書室の鍵を持っているのは誰なのか。後は、榎並林檎とその周囲に渦巻く輩との関係性かな。さて、少年よ。君はこの三つの問題の中で何を優先すべきだと思う?私は君の意見を参考に動いてみようと思うよ。」

「そうですね、僕だったら榎並さんの事について調べに行きますかね。なんだかんだ言って被害者の事について何も知らないと言うのは少し致命的ではしませんかね。仮に、手首の痣の件が解決したとしても、誰でもできただろうでは、犯人に繋げることはできませんからね。」

 僕は、今脳みそを使える最大限まで使い考えたつもりだった。先輩が僕の意見に対して一喜一憂するのかと思うとなんだか生半可な答えをしてはいけないと思ったからである。

「ふむふむ。なるほど、わーかった。それが君の意見だと言うなら、それを尊重するよ。と言う事で、私達はこれから本校舎に戻り彼女のことについて調べに行こうと思います。意義はありますかね、少年。」

「意義というほどの事ではありませんんが、警察が来る前に僕たちがこの場を離れてもいいのでしょうか。」

「大丈夫大丈夫。全然問題ないね。根拠は私が言っているところかな。まぁ、いざとなったら、トイレに行ってました。くらいの言い訳で済まそう。いい加減死体を見るのも飽きてきた頃でしょ。と、言う事で、私達はこれからトイレに行く。あぁ、でも警察に少年がいることを伝えてないから、私がトイレに行きたくなりましたー。でいいのかな。なんにしろ、私はトイレに行くのだけれど、急ぎすぎて転んでしまい保健室に行っていたら、人が死んでいたのを忘れてしまった。という事にしよう。」

「いや、どういうことですかね。そんな人間いませんよ。転んで記憶でも落としましたか。」

「おぉ、良いねその設定。記憶を落としちゃった。君は天才かな。」

「先輩には負けますけどね。」

「本当に?いやぁ、まいっちゃうね。本当の事だけに、天才だなんていわれると嬉しさで舞い上がってしまいそうだ。いや、でも否定するわけにもいかないよな。だって私天才だし。世の天才は、天才ですねって言われた時どう返答しているのだろう。まさか、当然ですね。なんて、堂々と言ってしまっておられるのかな。だとしたら、やはりそれこそ天才って感じだよね。天才なら、余計な謙遜も周りの目も気にすることなく自分のことを的確に分析した結果、やっぱり、俺は天才だよな。って思った上での発言だろうしね。つまるところ、私、こと天才が、天才ですねと言われた時になんて返せばいいのか。答えは一つ。当然ですね。」

「先輩が世の天才達をどう見ているのかは分かりませんが、先輩のその発言は、自己分析を的確にした後の発言なのでしょうか。」

「自己分析など不要。何故なら天才だから。」

 さっきと言ってる事丸々違う。

「・・・。さ、流石ですね。流石先輩です。もうこんな尊敬できる先輩にお目にかかることは今後一生無いかもしれませんね。いや、一生無いでしょう。今後、一生、ない!」

「なんで、そんなに無いを強調させてくるのかな。何が無いんだろう。こんな素晴らしい天才と出会う機会かな。」

「あぁ、はい。そうですそうです。」

「適当っ。適当過ぎるでしょ。謝ればいいの?心の底から真剣に調子に乗ったこと言ってすみませんでした。って誤れば良いのかな。」

 先輩必死だな。なんかもう子供みたいじゃないですか。

「なんで拗ねてるんですか。別に良いですよ。じゃあ本校舎戻りますか。本校舎に戻って榎並さんの部活でも尋ねに行きましょう。」

「よしっ。情報収集だ、なんだかワクワクしちゃうね。」

 こうして、僕達二人は古めかしい廃屋のような図書館から姿を消したのである。これもきっと解決へと向かうための第一歩となるだろう。いや、なりますように、か。


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林檎と謎。 遊馬楓 @hatimitusiroppu

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