異世界英雄の隠居生活〜異世界で英雄になりましたが、貴族たちに国を追い出されたので森でスローライフします。〜
神百合RAKIHA
Ep1 英雄、追放される
ここはとある戦場。
戦場だが、普通の戦場ではない。人と魔物が戦いを繰り広げる戦場だ。
戦況は人の陣営が圧倒的に不利な状況だ。
「おい!まだ援護は来ないのか!?」
「もう少しだ!それまで持ちこたえるぞ!!」
最後の境界線を守っていた2人の兵士たちの声。
それは、ここが突破されればもう後はないという会話。それを兵士たちが必死に防いでいるのだ。
「持ちこたえるんだ!!援護は必ず来る・・・」
「だが!もう俺たちも限界だぞ!!」
2人兵士だけではない。他にもいるのだ150人ほどの兵士たちもすでに限界が近い。
先程から全く来ない援軍に、自然と兵士たちに諦めの表情が浮かび始めた時だった。
「待たせた!!後は任せろ!!」
1人の少年が兵士たちの背後からものすごい速度で飛び出し、魔物の群れに突っ込んで行った。
「あ、あれが援軍か?」
「あんな子供が援軍なわけ・・な・・な!!」
兵士の顔が驚きに染まる。
なぜなら先ほどの少年が次々と魔物たちを蹂躙していくのだ。
信じられない光景に、兵士の1人が呟く。
「俺たちは・・・伝説を見ているのか?」
少年は魔物たちを1匹残さず倒し、国を救った。
この日、この謎の少年は、英雄となった。
◇
この魔物との戦争から2日後。1人の少年が王城の応接室に呼ばれていた。
「なんの用だろう?褒美とかはいらないんだけど」
この少年はつい先日、あの魔物たちを蹂躙した少年である。
彼はこのアークツルス王国の王様から依頼を受け、あの戦場に飛び出して行ったのだ。褒美はいらないと言ってあるので、その件ではないと思うのだ。
「すまんな零人殿。待たせた」
と、そこに王様が入ってきた。少ししか待っていないので、少年は特に気にすることなく応対する。
「大丈夫ですよ。それよりどうしたんですか?褒美はいらないんですが・・・」
「・・・実はな」
王様は暗い顔をしながら少年に話す。
「実は、先日の戦いでのことなのだが・・・、貴族たちから君に処罰をという意見が出たのだ」
「処罰ですか?」
少年はあの戦争の英雄。処罰などされるようなことはしていない。
「貴族の間で、君が魔獣を呼び寄せ、手柄を取るように仕組んだという声が挙げられた」
「それで、処罰をと?」
「いや。そうはならん。私が真っ向から反対したからな。君の無実は証明済なのだが・・・」
「なにか問題が?」
「ここで私たちの政権が揺らぐかもしれないのだ。手柄が欲しいヤラシイ者たちの声とはいえ、貴族は土地を治めるものだ。その彼らと対立してしまうのは非常に良くないことなのだ」
王様の意見に、少年は納得する。王様は貴族と対立するのをよくは思っていないのだろう。
少年は王様のことを考え、最善の選択をすることにした。
「なら簡単です。その処罰を僕に下しましょうか」
「・・・いまなんと?」
王様は僕の言葉に信じられないと言った顔で聞き返す。
「ですから、僕に処罰を下してしまいましょう。死刑にするとかではないですよね?」
「あ、ああ。少なくとも死刑ではない。いいとこ、国外追放だろう・・・だが、本当にいいのか?」
王様は少年に確認する。ありもしない罪を受け入れ、裁きを受けるのだ。こんなことはあっていいわけない。
「まあ、それで王様の気が楽になるならそれでいいですよ。それに、1人でもやっていけますから」
少年は自信ありげに答える。少年はそれだけのスキルはあるのだ。
「本当にすまない。君のこれからの生活の資金を用意しよう。こんなことしかできなくて恥ずかしいばかりだ」
「いえ、そんなことは」
「いや、そうだとも。国の英雄をこんな風に扱うことしかできないとは、我が国の汚点だ」
王様は己の力の無さを嘆くばかりに頭を下げている。とりあえず少年は、この国を出ていく命令を下される時の打ち合わせをすることにした。
◇
そして翌日。打ち合わせを通り、ことは進んだ。
「如月零人。そなたを大罪人とし、永久にこのアークツルス王国より追放する」
少年・・・如月零人は無言で言葉を聞き入れる。王の言葉が下された瞬間、周りの貴族たちが薄汚い笑みを浮かべているのが横目でわかった。
零人は衛兵に両腕を押さえつけられながら歩かされ、王城の外に連れ出された。
「零人様!!いや!お父様!どうして零人様が罪人になっているのですか!!」
「スピカ・・・これは決定事項なんだ」
扉が閉まる直前、零人に懐いていた姫の声が聞こえた。
◇
ということで、俺 ── 如月零人きさらぎれいとはアークツルス王国を追放されてしまいました。
「いや〜、資金ももらったしのんびり暮らせるわ!」
実はこの国を近々出るつもりだったのでちょうどいい。俺は不意に入った大金を収納袋にしまいながら笑った。
「さ!これからどこに行こうか!英雄とかどうでもいいから農村とかの人目につかないところに行こう!!」
罪人とされた英雄は、静かに隠居するための拠点を探し始めたのだった。
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