ゼロからも始められない勇者生活

ちびまるフォイ

あなたが死ねば世界が回る

「おお勇者よ死んでしまうとはなさけない!!」


「おお勇者よ死んでしまったのか、しょうがないな」


「……え? また? 今度は頼むよ」



「お前!! 何回死んどるんじゃ!! 勇者はく奪するぞ!!」


何回も勇者がデスワープしてきて、

作りかけのドミノをぶっ壊すものだから王様は我慢できなくなった。


「なに!? 本気でお前戦ってんの!? それともわしに対しての嫌がらせ!?」


「ちがいますちがいます!

 俺だって真剣に戦ったすえにやられてるんです」


「敵はそんなに強いのか」


「ええ、コボルトというやつ、なかなか侮れません……」


「それかなり序盤の奴!! なんで!? なんで負けちゃうかな!

 レベルあげろよ!! 装備を買えよ!! 努力をしろよ!!」


「お言葉ですが王様。500円ぽっちで装備が買えると思いますか!?

 レベルを上げるにもこうして倒されるから勝てないんですよ!」


「そんな服を買いに行くための服がないみたいな理屈……。

 とにかく!! これ以上、この体たらくが続くようなら

 貴様は勇者からもとの宿屋の主人に戻すからな!!」


「ひぃぃ!!」


勇者は最後通告を受けてふたたび城を出た。


「まいったなぁ、もうこれ以上迷惑はかけられないぞ。

 なんとしても敵に捕らわれている姫を救って結婚にこぎつけたいのに……。

 将来の父に悪く思われたくない」


町の中をうろうろしていると、怪しい老婆が街角に立っていた。


「こんにちは、ここで何をやっているんですか?」


「これはこれは勇者様。私は負けイベントババアです。

 3回以上死んでしまうポンコツの前に現れる救世主ですじゃ」


「はぁ」


「あなたは負け続けている。

 だから、負けることで世界が進むようにできるんですじゃ。

 やりますか?」


「……よくわかんないけど、お願いします」


「かしこまじゃ」


老婆は手元の水晶に力をこめると、まばゆい光が世界を包んだ。


「終わりましたですじゃ。ちょっと負けてごらんなさい」


「だ、大丈夫かなぁ」


再び死んで王様の御前に死体送迎されるのか不安だったが

普通に戦って、普通に死んだ。


やっぱり王様の前に転送された勇者は怒られると思って体をこわばらせた。


「……あれ?」


「ほっほっほ、勇者よ。何を頭を下げておる。おもてを上げい」


「機嫌よさそうですね……?」


「貴様がさっき殺されたコボルトだがな、

 そいつが力をつけてここら辺一帯のモンスターを倒したのだ。

 まさに食物連鎖の頂点。貴様を倒してレベル上がった影響だな」


「すごい!! 負けイベントで進行している!!」


「道も切り開けたわけだし、姫の救出を頼むぞ」


「はい!!」


勇者はふたたび冒険の旅へと出かけた。

フィールド音楽を楽しむ間もなく魔物に襲われ、あっという間に絶命。



「……こ、ここは……?」



「目が覚めましたか? ここは魔王の城に一番近い村です。

 あなたが倒れているのを見かけて、助けたんです」


「すごい!! 死ぬ度にイベント進行している!!」


勇者が死ぬことで、先に進むことができる。

あれほど始まりの街から進まなかったのが嘘のよう。


「これもう戦わなくていいんじゃないか」


勇者は気付いてしまった。

勇者の「いさましい」という部分の漢字を取り除きたくなるほどの真実に。



「ゴアアアア!!」


「出たな敵め!! さぁ殺せ!! できるだけ早く! 痛まないように!!」



敵が出ると、勇者はどうぞとばかりに体を投げ出した。

魔獣はノーガードの勇者をすぐに狩る。



YOU DIED...



何度も何度も死に続けることでイベントは進行し、

ついに魔王の前まで負け続けて進むことができた。


「ククク、やっと死から目覚めたようだな。

 我は魔王。勇者をこの手で殺すために、死体をここまで運ばせた」


「勇者様! 助けてください!」


「姫! 今助けます!!」


勇者は剣を抜いて、剣を放り出し、そのまま魔王に突っ込んだ。


「なんだ? そんな隙だらけで!」


魔王に瞬殺された勇者の表情はにこやかだった。


「これで……イベントが……進行する……」



勇者がふたたび目を覚ますと、

相変わらず世界は魔王の作り出した暗雲に覆われていた。


「あれ? 失敗したかな?」


もう一度、魔王のもとにいって殺されてくる。

世界はなにも好転していなかった。


勇者は怒って負けイベントババアのもとを訪れた。


「ちょっと! 何回も死んでるのに、イベント進行しないんだけど!」


「はぁ、それはそうじゃ。

 だって最後の戦いが負けイベントのわけがないじゃろう?」


「……へ?」


「最後の戦いくらいは自分の力で勝たないとじゃ」


「えええええ!? ムリムリムリ!?」


これまでの戦いをのきなみ負けてきた勇者。

体も戦略もちっとも成長などしていなかった。


ここから魔王を倒せるだけの力をつけるなど不可能。

コボルトに負けるような男なのだから。


「なんとかならないんですか!? 今から鍛えても無理ですよ!

 負けイベントにできるくらいなんだから

 勝ちイベントにもできるでしょう!?」


「まぁ、できなくはないですじゃ」


「本当ですか!? お願いします!!」


「キエエエエエエーイ!!」


負けイベントババアの力が再び世界の果てへと送られた。


「これで間違いないですじゃ。あなたは魔王に勝てる」


「よっしゃあ! 行ってきます!!」


勇者は負けイベントババアの言葉を信じて魔王の城にやってきた。


「そのしつこさだけは褒めてやろう。だがまた瞬殺されるがいい」


「それはどうかな?」


「な、なんだ!? なぜか知らないが体の動きが悪い!」


魔王は自分の身に降りかかった異常に感づいた。

体の動きは堅く重く、勇者に攻撃が当たらない。


「はははは!! そうさ! 今回は俺の勝ちイベント!!

 勇者の俺が勝つように仕向けられているのだ!!」


「なにぃ!? くそ……負けてたまるか……!!」


魔王はハンデに足を引っ張られながらも懸命に戦った。

それでも勇者により倒された。


「ぐはぁ……この私が……こんな弱い奴に……」


「フッ、運命には誰も勝てない。さぁ姫、一緒に城に戻りましょう」


勇者は最高のキメ顔で姫に手を伸ばした。



「いやよ」




「えっ」


「悪いけど、私は城に戻らない。ここにいるわ」


「はぁ!? なんで!?」


「だって……私のためにこんなにぼろぼろになるまで戦って……。

 こんなに素敵な人と離れるなんて……できないわ!」


「姫……!」

「魔王様……///」


魔王城の魔物たちからライスシャワーが吹き荒れた。

勇者は一目散にババアのもとへ直談判しに向かった。


「ちょっとどうなってるんですか!!

 俺が勝ったはずなのに、ちっともいい展開になってない!!

 どうなってるんですか!」





「そりゃそうですよ。魔王側を負けイベントにしたんですじゃ」

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