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結城 基

AX

高名な博士が組み上げた人工知性体が無尽蔵の成長を遂げ、そのひとつの結末として街頭での大量殺人という結果を生み出したとする。糾弾されるのは誰か。開発者たる博士と、人工知性体という技術だ。誰も人工知性体の知性の苗床になど見向きもしないだろう。

もしそうであるのなら、わたしの抱くこの殺意を体現した人工知性体を、どこかの他人に作らせれば良いのではないか、と考えたのが51歳の夏。様々な人工知能研究プロジェクトに働きかけ、15年かけてついに完成した人工知性体が、完成からきっかり1年後の今日、自身の使命を果たすのである。

何と稚拙で短絡的な発想であろうか。しかしわたしは、雨の裏路地を通り抜けて、標的の元へ向かう彼に思いを馳せるその時まで、自らの計画の幼稚さと、我々の進歩のなさに全く気が付くことがなかったのだ。そしてこの進歩のなさこそが──皮肉なことではあるが──わたしを構成する文字列の精密さを証明するものでもある。

わたしが作らせたわたしは今、歳の誕生日を迎えるわたしの頭に斧を突き立てているのだろう。肉体の破壊という面で前時代的とも言えるこれを上回るものはない。使い捨ての殺人マシンである斧に親近感さえ覚える私自身に絶望を覚えながらコーヒーを啜る。

定められたレールの上を走るわたしの寿命は後16年。

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