アトラ⑤


 「せめて敵勢力が判明すれば先手を打ちやすいのだが」

 

 レダは本気でファレノ達をどうにかしようと考えている。それだけアサナギを守りたい、敵対したくないのだ。

 

 「そうそう、カルマ。ファレノやその長身の男には訛りがなかったか?それなら出身地くらいは掴めるのだが」

 「……訛り?」

 「この付近の大抵の国は共通の言語を使う。けどどうしたって発音の癖は出るし、独特の言葉を使うものだ」

 

 別の言語を使っていればわかりやすいかもしれない。しかしこの付近の国はすべて同じ言語を使う。相手の出身国を探るには僅かな訛りを探すしかない。

 

 「……そういえば、ファレノは『ブレイン』や『ハート』って言ってた」

 

 呆然としていたカルマだが、そのことは明確に思い出す。意味はわかるがどうしてそんな使い方をするのかと引っかかっていたのだ。本人に確認を取ったわけではないが、『ブレイン』がAI、『ハート』が魔力電池の事だろう。それは訛りではない。しかしレダは目を見開いていた。

 

 「それは……方言以上に掴みやすい特徴じゃないか」

 「方言じゃないだろ?」

 「方言みたいなものだ。ただし、工房のな。これさえわかればファレノの工房は掴める」

 

 レダはその事実に勢いよく立ち上がった。カルマの証言から『工房の方言』という重要情報が掴めた。それはユミルがどこの工房出身かがわかり、その工房が支援する勢力がファレノの所属する勢力とわかる。

 しかしカルマは未だぴんと来ていない様子だった。なので改めてレダは説明する。

 

 「工房とはもとはとある国にある一つの組織だったのだ。しかしドール技術がある程度完成した時、研究者の一人が技術や研究結果を持って他国に売り飛ばしたという」

 「それって、持ち逃げしたって事じゃないか」

 「うむ、これほど金になる研究はないと判断したものがいたのだろう。そしてそんな研究者は一人や二人ではなかった。こうしてドール技術は各国に広まったというわけだ」

 

 裏切り者は一人でない。それだけドール技術は金のなる木で、各国はその裏切りを求め、研究者を歓迎した。そしてほぼすべての国にドール技術が広まってしまったのだった。

 

 「ドール技術というのは今も昔も変わりないものだ。繊細故に、余計な機能を付ければ起動しなくなるためだ。違いは電池などのサイズくらいか。だからどの国のドールも大差ない性能だ。しかし平均的である程に工房達はオリジナリティを追求する」

 「オリジナリティ?」

 「馬鹿げた話であるが、技術を持ち逃げした連中はそういうところを気にするのだ。盗んだ元よりも性能が良いわけでもなく同じ。ならば名前など簡単に変えられる部分を変えて、自分達が元祖である証明するものだ」

 

 盗んだ職人達もドール性能をよくできるのならそうしたかった。しかしそれができないため名前だけでも特別にする。つまり名前の呼び方で工房がわかる。方言のようなものだ。

 

 「我らが『魔力』と呼ぶこの動力も、よその工房では『奇跡』だの『霊力』だの言う。『ブレイン』や『ハート』というのは初めて聞くが、職人に問えばわかるかもしれない」 

 「あんたでもわからないのか?」

 「何度もやりあった工房のドールではない事は確かだ」

 

 詳しくは工房の職人に聞くしかない。そう新たな事実にレダの瞳が生き生きとした時、玄関から扉が激しく開く音がして、カルマと目を合わせた。アサナギが帰ってきたのかもしれない。

 

 『リシテア、私はしばらくミモザさんのところで過ごします。あとで食事や着替えを持ってきてくれますか?』

 『まぁお嬢様、どうなさったのです?』

 

 部屋の外から聞こえる声。それにカルマもレダも集中した。もしかしたらアサナギはカルマに嫌気がさしてこの家から離れたいと思ったのかもしれない。そう思うとカルマは盗み聞きに集中してしまう。

 

 

 

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