アトラ④
カルマはシーツを見つめたまま何も言えなかった。もし自分がユミルを破壊できなければ、アサナギはとっくにさらわれていただろう。それを思うと体の中を流れる魔力が停滞する。マスターの死や喪失が恐ろしいのだ。
「当然、その時にはカルマは戦うのだろうな?」
「っ、うるさい!お前は自分ができないからって、俺に押し付けようとするな!」
苛立ってカルマはレダに怒鳴りつける。改めて確認するような質問と押し付けがましい口調に苛立ったのだ。しかしレダは表情も変えず首を傾げる。
「確かに我にはアサナギのそばに控え守ることはできないし、貴殿に押し付けたい。しかしカルマがどんなアサナギであろうと守るかは聞いておきたい」
「……はぁ?」
「ドールの優先命令は第一にマスターや有益な人間の安全、次に自分の身の安全だ。人間は復元なんてできぬし、ドールも場合によっては人間と戦うしかないときがあるからな」
人間に近いドールであってもそのあたりはきちんとプログラムされている。そのため言わなくてもアサナギを守ることは決定している。味方は守り、敵とは戦う。優先度ばかりはプログラムの問題なので個人の性格や絆は関係ない。
「しかし守るのは自勢力にとって有益な人間だけだ。裏切った人間はそれに含まれない」
「……そりゃあ、裏切ったなら優先度はガタ落ちするだろ」
「もしもアサナギが裏切ったら、優先度は落ちる。敵となった場合、カルマはアサナギと戦うのか守るのかを聞きたい」
「は?アサナギが裏切るわけねーだろ」
「だからもしもの話だ。それに誰かを人質にとられたとか、無理矢理連れて行かれる可能性もある。その場合も上層部にとっては『裏切った』うちだ」
聞いているうちにカルマは魔力の低下を感じた。アサナギならば絶対に裏切る事はない。そうわかっていても、敵に無理矢理連れて行かれれば裏切り者扱いをされる。もしそうなれば、カルマの優先順位は変更。アサナギをマスターとして認識せず、裏切り者の排除をすることになる。カルマのこの手がアサナギを殺すのだ。
「まぁ、脅すのはこの辺りにしておこう。あくまでその可能性は優先度の問題だ。ドールの中で裏切りと思わなければ『裏切り者の排除』はなく『マスターの安全確保』が有効となる。そもそも我らは常識外の存在である。優先プログラムなどあっても、魔力の前では関係ないだろう」
暗い表情を見せるカルマが哀れになったのか、レダはそうフォローを入れた。優先度の問題はAIのものだ。AI以外に魔力が入った彼らにその常識はつうじないかもしれない。
「だから我は改めて聞きたい。もしアサナギが敵勢力につくのなら、我にはその排除命令が出るだろう。カルマはそれを止めるつもりはあるか?」
「っ!」
「カルマはどんな状況だってアサナギの味方をするかどうか。我はそれを聞きたいのだ」
それはレダが安心するための質問だった。彼はコンビ解消した以上、アサナギが敵になるのなら戦う。優先度もあるしアサナギとの絆だってなくはないが、現在のマスターとの絆も持っている。きっと悩みはしても、現在のマスターを選ぶとわかっている。
しかしカルマは違う。彼のマスターはアサナギだけ。例え優先度の変更があってもアサナギを守る可能性がある。
それはレダと戦うことにも繋がる。そして他のドールとも。
「……まぁ、生まれたてには酷な質問か。良い、アサナギを敵勢力に渡さなければすむ話だ」
いつまでも答えないカルマに対して、レダは明確に尋ねることをやめた。カルマは生まれたてだ。経験値が少なく見てきたことも考えてきた事もレダよりずっと少ない。
レダはそんな頼りない彼に頼るしかないこの現状に内心苛立っていた。しかし大事なのはアサナギを守ることだ。そうすれば優先度の問題など考えずにすむ。
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