Chapter One
お姫さまは独りで、白いページを見つめています。
ひざの上に厚い本をのせ、絨毯の上に座っています。
手には羽根ペンを握っていますが、それを動かす気配はありません。傍らに置かれたインク壺に、紅く燃えさかる暖炉の炎が、ゆらゆらと映っています。
お姫さまはため息をつくと、ようやく二言、三言書きつけて、ぱたりと本を閉じました。ぱちぱちと、薪のはぜる音が響きます。
お姫さまは閉じた本を胸に抱えて、暖炉の炎を見つめていました。ガラスのような瞳に想いが現れることはなく、ただ紅い炎が揺れています。
お姫さまが抱えているのは、お姫さまの日記です。革の装丁に金箔を押した、ずいぶんと分厚く、立派な本です。お姫さまは一ページずつ、毎日白いページを埋めていかなければならないのです。
お姫さまは、塔の上で独りぼっち。
ここから出ることもできないし、誰かが訪ねてくることもありません。
明かり採りの窓が天井近くに開いていますが、あまりに遠くて、辛うじて空の色を窺えるだけです。
天気がいい時は、白い雲が旅をしていきます。
でももちろん、雲がお姫さまを気にしてくれることはありません。あまりに遠いから、お姫さまがいてもわからないのでしょう。お姫さまは、いつか気づいてくれますようにと、そっと手を振ってみます。
雨降りの時は、空が憂鬱なため息をつきます。
お姫さまは、空が自分と同じ気持らしいのが嬉しくて微笑みます。そして、空が降らせる雫を手招きします。でも、雨粒が飛び込んでくることはありません。
晴れた夜には、星がそっと覗きこんできます。
星はちらちらと瞬きながら、気の毒そうな顔をします。お姫さまは、大丈夫よ、という気持ちを込めて、知っている限りの歌を歌います。そして、知らないうちに眠りにつきます。
でもやっぱり、お姫さまは独りぼっち。
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