四、濃いコーヒー
警察に戻り、メレーを引き渡した。ドモンは服を着替えた。杖を持つと背が伸びたように見える。外部協力の書類に署名をもらい、外まで送る。
「ご協力感謝します」
「いえ。あいつ、どうなるんですか」
「この事件における役割を調べます。その後、これまでの罪を償わせます」
「惜しいな。もっと早ければ」
「それは協会の仕事でしょう。素質ある者の発掘は」
ドモンは門の所で私を振り返った。
「仰るとおりです。我々はもっと泥臭い仕事をすべきなんでしょう」
「期待しています。犯罪と病気は予防が一番ですから」
苦笑いして馬車に乗り、魔法協会の男は帰っていった。
自席に戻って報告書を書き、捜査官たちに指示してメレーからの使いを追わせた。
その説明が一段落ついたので、ちょうど届いていた報告を読む。解雇された召使いの件だった。捜査官が到着した時、モリエはまだ事件を知らず、驚いた様子だったという。情報統制は行き届いていた。
事件前日は挨拶回りと荷物の準備で潰れ、仮眠して日の出前に起床。アトウ家を出たとのことだった。
聴取によると、召使い間には目立った不和はなく、アトウ氏もミヤマ氏も人から恨みを買うような人物ではないと言い、それは他の報告と一致した。
しかし、他と異なる部分もあった。すでに辞めてしまったことから口が軽くなったのかもしれないが、アトウ氏とミヤマ氏との間に確執があったと証言している。
アトウ氏は金策、おそらくは政治資金、のため領地の一部を売ろうとしており、それに先代から勤めているミヤマ氏が反対していたという。
執事とはいえアトウ氏からすればもう一人の父親のようなミヤマ氏の意見を無視するわけにはいかず、ほぼ毎日のように言い争っていたらしい。
私はそのあたりを繰り返し読み、他の報告とも突き合わせてみた。すると、夫人や召使いの証言にもアトウ氏とミヤマ氏の関係をうかがわせるものがあった。アトウ家の実権は事実上二人が握っていたものらしい。
ただ、仮にそれが動機としても、主人を殺して自殺したとするのは成り立たない。ミヤマ氏は背中から刺されている。
さらに報告書をめくり、他の捜査官にも聞いてみる。モリエの解雇理由が引っかかった。三年勤めているが、斡旋会社によると、両者合意につき更新を行わず、としか書かれていない。夫人や召使いたちは実家の都合で辞めるそうだと証言した。モリエ自身もそう言っている。
おかしな所はないが、簡単すぎだった。証言を取った捜査官もその点を不審に感じていた。一人は、三年勤め、家の内情を知る者が辞めるにしてはあっさりしすぎている印象があったと言った。もう一人は辞める状況や経緯の証言が一致しすぎている点をおかしく思っていた。まるで口裏を合わせているようです、と報告した。
「もう少し突っ込んでみるか」
部長に相談すると、そう言ってコーヒーを飲んだ。
「はい。メレーの使いの行方と合わせて調べます」
「よし。ただ、な……」
声を潜めた。
「……注意して動け。貴族が絡んでる。情報統制だ。殺害の状況など詳細は表に出ない」
「気をつけます」
「それと、お呼び出しだ。レディの」
「は?」
「今言ったばかりだぞ。貴族絡みだって。アトウ氏は大誓約維持派だ。そのくらいわかってるだろ」
部長はわざとらしくため息をついた。
「そういうことですか。濃いコーヒーが欲しくなりました」
「好きなだけ飲め。胃の一つや二つ壊しても気にするな」
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