第2話 出会い

 平和な村だ。

 住民は百人をわずかに超すばかり。大部分は農家で、トウモロコシと燕麦と、わずかな小麦を育てている。特産品というものはなく、山に囲まれ交易が盛んとも言えない。

 貧しいと言えばそうなのだが、住民は笑顔多く、善良で、親切だ。身元も知れぬ旅人でも、暖かく迎えてくれる。旅籠もないこの村に立ち寄った私を無償で泊めてくれるという家まであった。厚意に甘えて、もう三日も滞在している。


「旅人さん、食事の用意が出来ましたよ」


 外に出てトウモロコシの青い葉を眺めていた私を、中年の女性が迎えに出てくれた。今夜、私を受け入れてくれた家庭の主婦である。ゾンネという名の笑うと少女のような印象になる女性だ。私には母がいないせいか、懐かしい気持ちにさせられる。

 うながされるまま家に入る。古い作りだ。がっしりとした木の柱にモルタルで仕上げた壁。屋根は草葺きで昔語りに出てくるような、これもまた懐かしさを感じさせる建物だ。


 食卓にはすでに、この家の主・ヨハンと、娘のカレンが席についていた。招かれるままに椅子にかける。


「こんなものしかないですけど、どうぞ、たくさん召し上がってくださいね」


 ゾンネが豆のスープを器いっぱいに満たしてくれる。ヨハンがパンを切り分け、カレンは葡萄酒を注いでくれた。

 カレンの白く長い指に視線を落としていると、くすり、と笑う声がした。見上げるとカレンと目が合う。なんとなく微笑みあった。


 ヨハンに合わせて食前の祈りを捧げる。私は信仰心の篤い方ではないが、ここにいると祈りというものが胸の底から湧いてくる。なんとも素直に頭を垂れることが出来る。


 食事はとても貧しいものだ。塩が取れないこの地域では自然と薄味になる。それでも噛みしめると深く身に沁み込むような滋養を感じた。

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