止まらない波㊴

 その日のために、アリナの一家は、潜入先となる同じ家族体制の一家の情報を外郭から入手し、入念な計画と準備を元にゲッスンの谷の入り口を潜った。

 ゲッスンの谷は、言わずと知れた希少鉱物〝ゲッスンライト〟が産出される特殊な場所である。それだけに、全ヴェルデムンドのみならず、全地球からも様々な人々が流入していた。

 しかし、その管理は限定的で、その多くの人々はヒューマンチューニング手術を施されるとこが義務付けされている。

 戦乱の前であればその限りではなかったが、戦乱も始まると鉱夫として働く者ですら政府軍の傭兵として駆り出されることを契約されるため、ミックスとなることが必然となったのだ。

「でも、それでもアリナさんは、あんな所に潜入したんだよね?」

「ええ。わたくしたち家族にとっては、それが必然でありましたから」

 潜入後のアリナ一家は、成りすました家族が他の寄留地にそろって出張に出掛けていることをいいことに、全ての個人ナンバーや声紋認証、虹彩認証、静手指の脈認証などのコピーを一切合切入手し、何食わぬ顔でそれぞれのゲートを潜り抜けたのである。

「通るとき緊張しなかったの? だって、見つかったらただじゃ済まないんだし……」

「緊張はしませんでした。なぜなら、わたくしたち家族は同じような装置を潜り抜ける何万回というシミュレーションを行っていましたから」

 アリナいわく、逆に拍子抜けしたと言う。

「やはり、ヒューマンチューニング手術を施すと言うのは一長一短だということの表れです。彼ら〝ミックス〟は、その技術を体に埋め込むと、いつの間にか目の前の現実を受け入れなくなってしまうようなのです」

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