止まらない波㊲

 アリナの話をとことん聞けば、それは耳を疑うようなひどい話だった。

 かつての新政府軍は、世のため人のためをうたいつつも、反逆者を捕らえては、経験データや思考データを採取した後は、もう用済みとして処分していたというのだ。

 アリナとその家族は、元々がとある国家の諜報活動を常とした機関に育てられた〝育成枠〟だった。そのため、かの戦乱に参加する以前から姉弟そろって情報収集に明け暮れる毎日だったという。

 家系の系譜として、国家の諜報機関に属することを余儀なくされていた彼女は、父親の多大なる影響を受け、

「ヴェルデムンド新政府が推奨している移民政策とヒューマンチューニング計画には、何らかのモノが仕掛けた戦略的な意図が含まれている。お前たちがその計画にるかるかは、確かなる情報を最大限に集め、石橋を徹底的に叩いてから決めることだ」

 そう教え込まれたという。

 アリナはその当時、まだ十三歳程度の少女であったが、父母譲りの慧眼と調査力で世の中の動向を細分にまで見守っていた。

 そして二歳年の離れた弟のジェイソンも同様に機知に満ち溢れた少年であり、その才能を期待された一人であった。

 だが――、

「羽間様があのゲッスンの谷に潜入して来ると噂が出回ったある日、いきなり弟のジェイソンが失踪してしまったのです」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る