止まらない波㉞

 懐祐の疑問の声が漆黒の森の中に轟いた時、

「な、なんで御座るか、あれは……!?」

「人だ! いや、あれは人ではない……。まるで人の形をした巨大な悪鬼だ!!」

 今まさに二つの巨体が気味の悪い地響きを伴って、彼らの目前に姿を現した。

 本来、同じ重力の中を駆け巡るのなら彼らの方が速いはず。にもかかわらず、かの二体の巨体たちはまるで子ネズミが巨木の間をすり抜けるように軽やかな地響きを鳴らしている。

「馬鹿な!? あれは自然原則に則っていないとでも言うのか!?」

 あんなものに見つかり攻撃でも受けようものなら、過去に百戦錬磨としてならしたの彼らとて対処のしようがない。

「ますます分からなくなってきたで御座る。一体、この世界は何だと言うので御座る!?」

 懐祐が叫ぶ。

 平助が、背中のシェンナの容態を気にしながら巨木の陰に隠れると、そこに現れたのが、

「チェカ! チェン! 目を覚ませ! 目を覚まして元の姿に戻ってくれ!!」

 必死の形相の羽間正太郎が、二体の悪鬼巨人を追って来たのである。

「何だ!? 何を言って御座るか、羽間どのは!?」

「お、おう……。どうやら彼の言い様では、あの悪鬼どもが〝デカメロン隊〟のチェンどのとチェカどのであるような言いっぷりだな……」

「うむ、とにかくそのようだが、如何いかんせん信じがたいで御座る……」

 両者は互いに顔を見合わせ、おぞましいものを見るような目で首を振った。

「しかし、ヘイどの。あの羽間どのの慌てぶりから見るに、どうも嘘偽りと見るにはいかぬで御座る。しかし……」

「ううむ、カイどの。我らはどうも、常識では計り知れぬ迷宮ラビリンスへと迷い込んでしまったようだ。後門には凶獣。前門には巨大な悪鬼とな」

 全長百メートルはあろうかという超巨木の枝をなぎ倒して、悪鬼の二人はこれでもかというぐらい暴れまくっている。

 悪鬼巨人を追いかける正太郎は、そんな二人の身体に樹木の繊維で編んだロープを引っ掛けてるが、

「あうっ、ぐうううっ……」

 猛スピードで暴れまくる風圧と遠心力に身体を持っていかれ、どうにも彼らを説得するにまで至らない。

「チェカ……!! チェン……!!」

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