止まらない波㉝

 ※※※


 その一方で、〝ハヤブサ隊〟の月永平助つきながへいすけ呉懐祐ごかいゆうは、未だ錯乱気味のシェンナ・シェンカーを引き連れたまま、正太郎や他のチームとの合流を計ろうとしていた。彼らがほぼ壊滅状態であることも知らずに――。

「ヘイどの。どうも風の流れがおかしい。これはやはり、数多あまたの凶獣の仕業なのだろうか……?」

 歩みを進めたまま、彼は黒く淀んだ上空を見上げる。視界は夕闇に包まれて墨汁をこれでもかというぐらいに流したような空だが、それでも異様な雰囲気を察知できるのは経験の蓄積によるところが大きい。

「うむ、わたしもそう思っていた。なぜかは分からんのだが、どうも嫌な予感がする」

 かつて激しい最前線で戦略歩兵として任務をこなして来た彼らは、超現実主義者の代表格である。がしかし、こういった戦場を流れ読のみ取りは、そんな彼らだからこそ感じる芸当である。

「しかしヘイどの。どうもおかしいとは思わんか?」

「何がであろうか? カイどの」

 月永は、ぐったりと力なく体をあずけるシェンナの容態を気にしつつ、懐祐に応えた。

「あの背骨折りのことでござる」

「ああ、なるほど。羽間どののことか」

「うむ。わしは先の戦乱の彼を誇りに思っておるが、別の意味でも常々思うところがあった」

「別の意味も……とは?」

「うむ。なにせ背骨折り……いや、羽間正太郎どのは、数年前の戦乱の多大なる立役者でござる。しかしてその真意は、あの戦乱の中心的存在だった人工知能神〝ダーナフロイズン〟の正反対の敵味方の立場にあったはず」

「ああ、左様であるな」

「しかしだよ、しかし。なのに彼は、なぜ今の今まで生きて来られたので御座るか? なぜ死刑を免れられたので御座るか? 確かにわしらも、あの戦乱て新政府軍に反旗を翻していた。だがしかし、わしらは一介のそれも一兵士にしかすぎんで御座る。しかし彼は、わしらと同じ一兵士だけに留まらず、あの反乱軍の中核を成した人物だったので御座る。となれば、百歩譲って死刑にはならずとも、極刑や禁固刑などの懲役はまぬかれなかったはずで御座る。なのに、彼はのうのうとあのヴェルデムンド世界を生きて来られた。そうだ。なぜ彼はあのように自由でいられたので御座ろうか?」

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