止まらない波㉕


 ※※※


「大変です、小紋様!! こちらをお開け願います!!」

 重たい雰囲気の中、その張りつめた空気を上塗りするかのように、女性の声で扉が叩かれた。

 話に夢中になっていた彼女らの意識は一旦素に戻るかのように屋外に向けられ、

「何事ですか!? 何かありましたか!?」

 小紋は扉の向こう側の人物に声を掛けた。

 小紋が当然のように扉に近寄り、それに応対しようとすると、

(小紋様。ここはこのわたくしの言う通りに対応して下さいませ)

 と、アリナが彼女を制した。

 小紋は目を合わせたのちに軽くうなづくと、

「こんな夜中に一体何があったんですか?」

 扉の向こうの人物に答えた。

「はい……。わたしはこの集落の南のとりでの見張りを任されているマキナ・ベルナドールと申すものですが、たった今、砦の警護役の交代番をしようと思い南の砦に近づいたところ、先任の見張り達が一様に息を引き取っていまして……」

「なんですって!?」

 小紋は慌てて扉の開錠をしようとするが、

(お待ちください、小紋様。ここは焦らず、事情を聞き返すようにして……)

 アリナの忠告に耳を傾けた小紋は、ひとまず呼吸を整えてから、

「マ、マキナさんと仰いましたね? もっと状況を詳しくお聞かせ願います」

 まだ少し鼓動の収まりがつかぬ胸を撫でながら声のトーンを落とした。

「は、はい、小紋様。実は、わたしは常々、この集落にあらぬ噂を耳にしておりました」

「あらぬ噂……? それは重要なことですか?」

「はい。この集落には、裏切者が存在しているのではないか……と」

 扉の向こうの女は答える。

 小紋は、傍に控えるアリナに目を向ける。すると、アリナが口角を上げたまま軽くうなづくのを見て、 

「この集落に裏切者が居ると言うのですか? では、もしかすると、その不穏な噂と息を引き取った方々に何らかの関係があると言うのですね……?」

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