止まらない波㉖

 扉の向こうの女は、小紋の問い掛けに一瞬の間を置いたが、すぐに、

「はい。わたしはこの目でしかと見ました。殺されていた仲間の様子をうかがっている最中に、怪しい人影がこの村の中に入って行くのを……」

 それを聞いて、小紋がアリナを見やるが、

(そのままお続けください)

 アリナは、二度うなづいて小紋にやり取りを促した。

「な、なるほど。怪しい人影ですか……。それで、マキナさん。あなたは?」

「はい? あなたは、と申されますと?」

「ええ。一体あなたはそこで何をやっていたんですか? あなたは南の砦の当番なんですよね? なぜ、その怪しい人影を追いかけなかったのです?」

 扉の向こうの女は、再び小紋の言葉に返答を詰まらせるが、

「は、はい、小紋様……。わたしはその時、大変焦っておりました。見知った二人の仲間を失い、そして自らの危険に身をさらされる。あの場面で、これ以上に無い恐怖を感じておりました。ゆえに……」

「なるほど。それは大変お気の毒でしたね。しかし、あなたは随分と冷静なのですね」

「冷静? このわたしが……で御座いましょうか?」

「ええ。僕にはマキナさんが、この逼迫した状況で、大分冷静な方だという印象を受けました」

「そ、そんなことは御座いません、小紋様! わたしは元々一介の未亡人で御座います! ですから、小紋様や他の皆様のように、この場所に至るまで実技訓練など行っておりませんもので……」

「ふうん。それにしては随分と自分自身の身の回りに起きたことを事細かく思えていらっしゃいますよね? それってなんかおかしくないですか? まるで、第三者がその面を観察していたような……」

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