止まらない波⑬

「ええっ、なんだって!? そ、それじゃあ……」

「え、ええ……。恐らく、恐らく夫が……ヘギンスが最後に伝えたかったのは、この集落に裏切者が存在することと、その裏切者が誰であるかということです」

「ま、まさか……」

「そう。そしてその裏切者とは、間違いなく吾妻元少佐とその配下の者たちだということです」

 小紋は、大きな金づちで頭を打ち付けられたような衝撃を覚えた。まさか、まさか……。

 動機が収まらぬ小紋を気遣うように、警護長であるアリナは機微をうかがいながら、

「小紋様。裏付けは取っております。わたくしど警護隊のメンバーは、こちらのエイミー・ハネルの事情を聴取するとともに、早速、吾妻元少佐とその周辺の人物の調査を試みました」

「そ、それで……?」

「ええ、吾妻元少佐はこの集落から消え失せておりました。そして、吾妻元少佐の住処に隠し部屋を発見いたしました」

「か、隠し部屋だって……?」

「ええ。そしてわたくしどもは、その場所からこんな物を発見いたしております」

 アリナは、自らの懐からそっと何かを差し出して来た。

 小紋は、怪訝な表情をしながら差し出されたものを手に取るや、

「これは、関節用のアタッチメントだね。じゃあ、ということは……」

「ええ、お察しの通り、これはヒューマンチューニングなどを施した人々から廃棄される付け替え関節アタッチメントの一部で御座います」

 人間の一部を人工物に作り替えるヒューマンチューニングも万能ではない。時に時期が来れば、消耗が激しい関節部分や表層部分をメンテナンスしなければならない。このアリナから差し出された一部は、そんな折に交換廃棄された代物である。

「そ、そうなんだよね。ちょっとにわかには信じられない話なんだけど、このタイプは、ここ一年の間に開発された新バージョン。つまりは……」

「ええ、いかにもその通りで御座います。彼らは間違いなくわたくしどもとは一線を画した存在――いわゆるかのヒューマンチューニング手術の〝推進派〟だったのだと考えられます」

 ヒューマンチューニング推進派とは、彼女らに言わすところの元〝ヴェルデムンド新政府組〟という意味である。

 小紋ら、この集落に暮らす者たちは、元来ヒューマンチューニング手術を行っていない元〝自然派〟の集まりである。そんな中、吾妻元少佐らは、自分たちが〝元反乱軍〟出身であるとし、羽間正太郎の下へと集って来た経緯がある。

 〝自然派ネイチャー〟たるヴェルデムンド新政府軍に反乱を起こした人々は、絶対的に身体の一部を機械に換装させるヒューマンチューニング手術をこばんだ。そんな彼らの隠し部屋から、廃棄アタッチメントが大量に発見されたとなれば、

「そうか。あの人たちは……吾妻さんたち元情報部のひとたちは、元から僕たちを騙すために……」

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