完全なる均衡㉜


「すまない、スコットどの……」

 月永は、呉懐祐に案内された場所にスコット・マイティの亡骸を確認し、深々と手を合わせてその場を立ち去った。

 このヴェルデムンド世界の影響を受けたエリアでの感傷は、それぞれ生き延びた者の生存率を格段に低めるものである。それがどんなに最愛の者の最後であろうとも、亡骸を相手に時間を費やすのは愚とされる所以ゆえんである。

「早々に羽間どのと合流せねば」

「うむ。この子を一人にするわけにはいかんでござるからな。ことを成し遂げるためにはチームを再編成する必要がござろう」

 まだ集落を出立して一夜も開けていないというのに、もう二人の兵士が命を絶たれてしまったのだ。それも自分たちよりも二回りも若い男女の命が――。

「しかし、これをやり遂げねば、この世界は全てが均一になってしまう、なあカイどの……」

 月永は、ぐったりとまだ力の籠らないシェンナの細い身体を背負しょい込みながら、闇にむせぶ草むらの中を駆けた。

「その通りでござる、ヘイどの。我らはかの戦乱より、そういった無理のある世界の流れを阻止するべく戦って来たのだ。この子たちが……このシェンナどののような若者たちが、自分の考えを持って自由に生き続けられるために……」

 月永は懐祐の言葉に、一つ胸を締め付けられる思いがよみがえった。

(果たして優菜ゆなは、どちらのを選んだのだろうか……)

 と。


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