完全なる均衡⑱
「驚くのはそこだけじゃないよ、正太郎さん! だって僕が答えたのは、ほとんどがクリスさんのものばかりだったんだよ?」
「そう言やぁそうだったな。しかし、これはどういうこったい、吾妻さん!?」
興奮冷めやらぬ二人に対し、吾妻元少佐は至って静かな表情で、
「これが拙に生まれ持って備わった能力とでも申しましょうか。あえて言えば、相手を納得させる説明など思いつきませぬ」
正太郎と小紋の両者は、目を見合わせて呆気にとられ、しばらく言葉を失っていた。
「まあ、このようなことが出来るお陰で、拙はいつの間にやら軍の情報部の籍に身を置くことになったのです。相手が見聞きした情報は、拙にとって具体的な映像となって脳に思い浮かび上がって来るのです。拙は、ただそれを絵に描き表しただけなのです」
「……だけなのです、ってよ。これは、そんなレベルの絵じゃねえと思うんだが」
未だに眉を落とさぬ正太郎に対し、
「いえいえ。息をするように凶獣を素手で打ち負かせるあなた方には、拙の力など到底及びますまい」
「そういうわけだったんだな、小紋。吾妻元少佐の下に集まった連中が飛び切り優秀なわけ」
一通り食事を済ませ、就寝の合図で二人は同じ寝床に入る。五百人からの集団を取りまとめるには、やはり多少の規律と交代制の見回りが必要だからだ。
小紋は、慣れた感じで正太郎が待つ寝床に潜り込むと、
「そうだね。吾妻さんが優秀な人だってのは分かってたけど、ああいった特別な部署で活躍していた人が、どれだけ特殊な能力の持ち主なのかをとことん思い知らされたって感じかな」
「それはお前が、元発明取締局のエージェントだったから感じたってことか?」
「うん……それもある」
「なんだそれ? それも、ってどういう意味だ?」
正太郎は、腕の中から見上げるようにして見つめて来る小紋の頭を撫でながら、
「僕はね、あの発明取締局に入局してから、正太郎さんとこうするまでに色んな人と出会って来た。もちろん、僕にとっては正太郎さん以上の存在なんか知らない。でも、それでもね、やっぱり……」
「やっぱり……? やっぱり、なんだ?」
「うん……。やっぱりね、人は一人じゃ生きられないんだなって、さ。そう思ったんだよ」
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