完全なる均衡⑦

「こちらの情報によりますれば、今現在、かの凶獣を強力な火器も使用せずに打ち倒せるのは、あなたと奥方どの以外に誰一人とそておりませぬ。よって、ここに集われし者たちにも、それ相当の力をお授け願いたい」 

 言われて正太郎は目を丸くし、

「し、しかしよ、吾妻さん。凶獣を倒すための特訓をするのは、この俺としてもやぶさかじゃねえが、この世界でそんなことをしてどうするって言うんだい?」

「ええ、確かに羽間どのその疑問は妥当なところでしょう。ですが、拙どもの集めた情報によりますれば、この世界の魑魅魍魎なる均衡の陰には、かの〝凶獣〟が関わっておることが判明しておるのです」

「なんだと!?」

「ええ。羽間どのが驚くのも無理からぬ話です。しかし、この目、この耳を持つ拙どもの情報は九分九厘確実なのです」

 吾妻元少佐のもとに集められた人々は、生来優れた五感を宿し、生来優れた記憶能力を有している。並の人々であれば、経験による概念の欠如によって、実際に起きた事象をそう簡単には認知出来ないものだが、彼らに至っては様々な経験によってその概念が開かれ、通常は見たくもない状況ですら色眼鏡なしにそのまま把握できるのである。さらには、そう言った心的リスクを負う経験ですら記憶の底から抹消することはないのである。

「そうかよ。まあ、吾妻さんがそこまで言うなら間違いはねえわな。でよ、その凶獣たちが世界の均衡に関わってるって話、一体どういうんだい?」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る