完全なる均衡⑥


 来るべきものが来たと正太郎は感じていた。この後には真の戦いが待っている。

 だがしかし、戦うと言ってもここには戦闘を仕掛けるための武器もなければ乗り物すらない。あるのは、森の中に朽ちて転がっていた数台のフェイズウォーカーだけである。

「そうだな。一から戦力を揃えるには何十年掛かるか知れねえな。となれば……」

「ええ。ある場所から奪うしかありませんな」

 かつて地方の反乱軍で戦略を担当していた吾妻十五朗あづまじゅうごろう元少佐は、老獪ろうかいにして頼れる人物である。彼は、元情報将校という経歴から、もうこの地の一帯に何が存在しているのかを把握していた。

「今現在、私の部下となった者たちは、始終を飛び回っております。羽間どの。かつてあなたが、かの戦乱でつちかった経験は伊達ではありませぬ。ここに使わす者どもはみな、あなたに多大なる期待を持っておるのです」

 さすがは現実の情報にけた人々なだけに、吾妻元少佐と、その部下となった連中は、この平坦で均衡なる世界を心から嫌っている様子だ。

「ああ、分かってるって、吾妻さん。見せつけてやるしかねえな。この俺たちの人間の底力てえもんを、な」

「しかしそれには、まだまだ戦力が乏しい上に、戦闘的な技量も伴っておりませぬ。どうか、そこはお力添えを……羽間どの」

「てえことは、この俺にこいつらの指南を?」

「左様です」

 吾妻元少佐の背後には、数十人の精鋭が肩を並べていた。老若男女問わず集められた人々は、一様に眼差しの濃い者ばかりで、それぞれがそれぞれに様々な未来を見つめ続けている者ばかりである。

「へええ、さすがは吾妻さんだけのことはある。情報と人を見る目には、あんたの右に出る人は居ねえな」

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