虹色の細胞㉔
「ふん……。まあいいわ。今はそれで手を打っておいてあげる。それで……」
言ってエナは言葉を置くと、
「なあ、エナ。ちゃんと小紋に挨拶してくれねえか。これでもこいつは、俺の唯一無二の弟子なんだからよ」
正太郎は、困った表情で小紋に向き直り、
「な? この声はエナ・リックバルトって言ってな。14歳の……」
「ええっ!? 羽間さんたら、こともあろうにそんな年端も行かない若い子に!?」
「ば、ばか! 違うよ!! エナはだな、昔俺が戦乱の時代に戦った戦略家の一人でな」
「だからって、そんな未成年を口説き落とすなんて!!」
小紋は後部座席から乗り出して、正太郎の頭をぽかぽかとやった。
「だ、だから誤解だって、小紋!! 俺ァ、エナを口説き落とした事実はねえし、唾を付けたりなんかしちゃいねえ!! だってよ、エナは……」
そこでエナが二人の間に割って入り、
「そうよ、初めまして、ミス・ナルコザワ。今のはショウタロウ・ハザマの言う通りよ。あたしはこの人に手を出されたくたって、もう一生手を出されない存在なの……」
「え? それ、どういう?」
「あたしはね、ミス・ナルコザワ。もうこの世界に実体としては存在しないのよ。つまり、肉体を持たない概念みたいなものなの。だから、その点だけは安心して」
小紋はたちまち胸を締め付けられた。間違いなくエナの気持ちを彼女は汲み取ることが出来たからだ。それだけに、肉体を持たないことが、どれだけ不憫なことであるか考えたくもない。
「エ、エナ、さん。エナ・リックバルトさん……?」
「はい?」
「これからも、わたしたちをよろしくお願いします」
※※※
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