虹色の細胞⑪


「ク、クリスさん!? その声は本当にクリスさんなの!?」

 小紋は思わず叫んでしまった。その落ち着いていて頼り甲斐のある何かを包み込んでくれるようなつやのある美声は、間違いなくクリスティーナ・波野のものであった。

「そうよ、小紋さん! 私はクリスティーナよ! 会いたかったわ!!」

 言われて小紋は本能的に構えたクロスボウを下ろし、電磁トンファーから手を離した瞬間である。

「うわあぁぁぁ!!」

 凍てつく巨大なハンマーが彼女の脳天に打ち下ろされる。

 刹那、巨木の根が木っ端みじんに粉砕された。その勢いで小紋の身体は宙を舞い、自重の落下とともに新緑の落ち葉の上に叩きつけられた。

「あうっ……!!」

 彼女の小さな体は、まるでトランポリンの反動を得たかのように一度二度と落下を繰り返した後、うつ伏せのまま巨大な葉と葉の間に落とし込まれた。

「う、ううう……」

 彼女は、今自分に何が起きているのか理解出来なかった。ただ、あの声が聞こえた後に、何者かの攻撃を受けたことだけははっきりと分かる。

「まさか……。クリスさんが、あの人をったの?」

 しかし、そんなはずはない。いくらクリスティーナが、元女王親衛隊の手練れであり、小紋の父親である鳴子沢大膳の隠密であったとしても、このような力技を使用できるはずがない。

(ということは……)

 それが〝五次元人〟の仕業しわざだと直感した。

 五次元人は、狡猾こうかつであると聞く。もし、相手が本当に五次元人であるならば、このような邂逅かいこうを果たすことも合点が行く。

(でも、これからどうしよう……。こんなの相手に、僕は)


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