見えない扉㊷
小紋にそんな真似が出来るわけがなかった。まさか、相手の確証を得るために人を傷つけることなど――。
「これは呪いだよ……」
小紋は、慣れない言葉をぶつくさと吐いた。
彼女はかつて、自らの師である羽間正太郎にこのようなことを言われた記憶がある。
「なあ、小紋。お前さあ、呪いって信じるか?」
鍛錬の場の休憩時間に、正太郎が唐突に問うてきたのだ。
「のろい? のろいって、あの呪術とか丑の刻参りとかに聞く呪いってこと?」
小紋は、薪ストーブの上でぐつぐつ煮える具だくさんの味噌汁を混ぜながら振り返った。
「ああ、そうだ。俺の言う呪いってのはその呪いだ」
小紋は、あまりにも正太郎の口から出なさそうな言葉に面喰らいながら、
「ちょっと、羽間さん。なにそれ? それも羽間さん流の戦術かなにかの用語なの?」
「ああ、まあ、そんなところだ」
「もうっ! 羽間さんたらそんなこと言っていいの? いつもはそう言ったもをあんまり信じないくせに!!」
小紋は、ぷんすかと口を尖らせながら、根菜と獣肉でたっぷりと出汁が出た味噌汁のどんぶりを差し出すと、
「まあ、そうカッカすんな、小紋。この間、俺がお前の星占いを馬鹿にしたんで、まだ拗ねてやがんだろ?」
「そりゃそうだよ。僕はこれでも夢見る乙女なんですからね! そのぐらい許容してくれたっていいじゃない!」
「へへっ、そうは言ってもよ。ここは泣く子も黙る弱肉強食の世界、ヴェルデムンドだからな。明日生き残るかどうかを、星占いやトランプ占いなんかで左右されては困るんだよ」
言われて小紋は、自らの分の味噌汁をよそい、唇を尖らせながら箸を運ぶ。
「じゃあさ、その羽間さんの言う呪いってなに?」
可愛いおちょぼ口でしたためながら、小紋が問い掛けると、
「俺の言う呪いは現実さ。迷信やオカルトの類いのことなんかじゃねえのさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます