見えない扉㉜


 フェフェリは微笑み返しで答えた。顔は笑っているのに、どこか冷たい印象を受ける。

(どういうことなんだろう? さっきから胸の中がざわついてるよ……)

 小紋は、正太郎が死んだということを本気にしていない。これもきっと、動揺を誘うための彼女たちのである可能性が高い。

(羽間さんが言ってたっけ。嘘を信じ込ませるには、嘘がてんこ盛りじゃいけないんだって。嘘は本当の中身の一割程度が頃合いなんだって……)

 小紋は、正太郎との訓練を受ける中で、様々な戦略術や戦術を学んだ。

 その中でも、

「戦いをする上で、虚実の判断は最重要課題だ。与えられた情報は常に疑ってかかるんだぞ」

 そう聞かされた時、小紋はいかに自分がという名の社会で生かされて来たかを思い知った。

「そんなこと言ったって、羽間さん……」

「生き残りたきゃ、そのぐらいの目を持て小紋。お前は俺の弟子になったんだ。心が美しくて純粋なのは、それはそれで構わねえが、そんなんで百戦して百回以上生き残れるだけの力は付けられねえんだ」

「じゃあ、僕に悪い女になれって言うの?」

「ああ? そうじゃねえよ。もしかすると、一般的にはそう言う連中もいるかもしれねえが、俺はそう考えねえ」

「じゃ、どうするの?」

「一歩引いた目を持つんだ」

「一歩引いた目って?」

「一歩引いた目って言うのはな」

 正太郎は、足元に目を向けて、そこに似たような十個の石を並べた。

「見てくれは悪いが、これが情報の要素だと思ってくれ」



 

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