見えない扉㉘


「ヴェルデムンドの背骨折りと称され、そして数々の偉業を成し遂げられて来た羽間正太郎様でしたが、鬼道シュンマッハとその悪童と手を組んだペルゼデールシステムに捕らえられ、一定の勾留期間を経たのちに、突如公開処刑されてしまったのです」

「なんだって!? あの羽間さんが、そんな簡単に? 嘘だ……」

「信じられぬのも無理もありません。なにせ、この私たちですら信じられませんでしたから……。しかし、これは事実でした。あのお方が処刑されたのち、鬼道シュンマッハ率いるペルゼデール側は、あのお方の御遺体の遺伝子情報をくまなく調べ上げた調書を、この世界全体に公開までしたのですから」

「そんな……」

「ええ、どんなに不死身の男の異名を唱えられた方でも、やはり生身一つの身体だけでは太刀打ち出来なかったのです。とても悲しいことです……」

 サトミル女史が続けて語ったのは、このヴェルデムンド世界のこれまでの歴史である。

 小紋が、実の父である大膳に地球へと強制送還されて以来、彼女がかつて身を置いていた〝ヴェルデムンド新政府〟が没落の一途を辿ったこと。

 それに乗じて決起した女王マリダを中心として〝ペルゼデール・ネイション〟が建国されたこと。そして、その陰の立役者が、何を隠そう彼女の父である鳴子沢大膳であったこと。

「うん、何となくだけど、それは知っていたよ。だってそれは、クリスさんから聞いていたからね」

 小紋は、さもそれが当然とばかりに首を縦に振りながら、サトミル女史の先の言葉をあおった。

 サトミルも、クリスティーナの存在は当然よく知っている。元同僚にして、女王マリダの一番のお気に入りであったクリスティーナは、女王親衛隊の中でも一二を争うぐらいの手練れであった。

「なら、お話は早いですわね。しかし、あなた様のお父上様は、あることが切っ掛けになり、忽然とかの〝ペルゼデールネイション〟からお姿をくらましになられました」

「あること?」

「ええ。それが、たびたび起こるかの国の暴動の中で、それを先導した何かにそそのかされたのだと……」

「そそのかされた? あのお父様が? 一体誰に?」

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