見えない扉㉗


「そう、あなた様のお師匠様であられた羽間正太郎様が、天へと召されてしまったのです」

「な……」

 小紋は、それ以上の言葉を失った。

 冗談にしては趣味が悪すぎる。嘘をくには内容が下手すぎる。戦略と呼ぶにしては単純すぎる――。

 まさか、まさかのあり得ないサトミル女史の言葉に、小紋は頭の中がぐちゃぐちゃになった。

「そ、そんなことって……。そんなことってあり得ないよ!! 羽間さんが死んじゃうなんてあり得ないよ!!」

 小紋は構わずベッドから飛び起きた。体中に取り付けられた様々な管が、ぶちぶちと音を立ててはじけ飛ぶ。

「お、落ち着きになって下さいまし、小紋様!! 取り乱してはなりませぬ!! ここで取り乱しては!!」

「そんなこと言ったって!! そんなこと言ったって!! 羽間さんは僕の……!!」

「お気をおしずめになって下さいまし! もう適性試験は始まって御座います! そうでなければ、あなた様に適性が無いとみなされてしまうゆえ……」

 サトミルが、小紋の小さな体を抑え込もうとすると、それにならって白衣姿のエリルとフェフェリが足元に落ちたばらけた管を取り込もうとする。

「あのお方は……羽間正太郎さまは天に召されたのです! あの鬼道シュンマッハの手によって!!」

「そんな……!!」

 この後もサトミル女史は、これまでのヴェルデムンド世界の経緯いきさつをこう語った。

 

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