見えない扉㉒
※※※
彼女が意識を取り戻した時、一つ懐かしい声が聞こえて来た。
「小紋様!! 小紋様!!」
何年かぶりに聞いたその声は、とても心穏やかで
「マ……リダ? どうして……マリダが? これは……夢?」
まだ意識が
「だって、僕はあの時……」
807自治区の格納庫に侵入し、そこで追い詰められた時に彼女が思わずとってしまった行動は、とても褒められたものではなかった。
格納庫からの脱出を図ろうとして押したボタンが、このような悲劇を生んでしまったことは言うまでもない。なのに……
「僕は……」
小紋の瞳から思わず涙が溢れ出して来た。突然起きた恐怖と、自分の配慮に欠けた悲しさの感情が一気に押し寄せてきたのである。
「小紋様……。まずはお気を安らかに。今はまだ目をつむって、おやすみになられた方がよろしいかと」
ベッドの上からのぞき込むような仕草で彼女は言った。
小麦色の肌に青色の透き通った瞳。そして流れるようにうねりを伴った煌くような金色の髪。そして何もかもを優しく包み込んでくれるような優しい声。
確かにあれはマリダで間違いはない――。
小紋はそう感じながらも、意識がスーッと薄らいでいった。
それがもし偽りなのであろうとも、これまでにもない安堵が全身を駆け抜けたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます