見えない扉⑳


 春馬はこの時、ヴィクトリアの覚悟を再確認した。

 確かに過激な自然派原理主義を掲げる組織だとは言え、自分たちの組織の本来の目的が、

『人類全体サイボーグ化計画の阻止』

 であることに何ら変化はない。

 確かに表向き上、

『自然との共存共栄』

 などという、教科書通りの旗印を掲げているものの、そこで他の組織のような利益をむさぼるためだけの理念などではない。

「私たちの組織は、そんなことをしなくても十分に組織全員が暮らしていけるだけの利益は得ているわ。ただ、私はあんな技術だけに頼った世界にしたくないだけ」

 ヴィクトリアのガラスの瞳に、青白い生気がこもる。

 これだけ存在する人類の中には、ヒューマンチューニング手術に耐性を持たない人々が稀に存在する。

 この白狐のビクトリアもその一人であり、まだ彼女が少女であった頃に、ある病で失明を逃れられない状況でヒューマンチューニング手術を受けた。

 しかし、彼女の身体は、かの機械技術を受け入れられる耐性を持っておらず、その手術の副作用で両目の光を失ったどころか、右足の感覚まで失ってしまったのだ。

 今だその原因は不明だが、このような現象は一定数見られており、ヒューマンチューニング手術耐性を持たない人々の中には、即、死に至る者も存在する。

「私が偏った考えなのも承知しているわ。でも」

「そう。でも、こうやってわざと偏って見せなければ、気付いてくれない人たちも沢山いる。そういうことでいいよね? ヴィヴィイ?」


 ※※※


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