見えない扉⑲


 彼らは見当もつかなかった。父大膳が、何を目的としてこのようなことを行ってきているかと言うことを。

「考えられるのは、地球上の人々を殲滅しようとしているわけではないことだけさ。もし、親父が人類全体を根絶やしにしたいなら、こんな回りくどい方法なんか取らないからね」

「そうね。こんな突飛なナノマシンウィルスを開発出来る技術があるのなら、人類を滅ぼすことなんて容易いはずだもの」

「ならば、世界の権力を牛耳るなんてどうかな? まあ、あの親父が、そんな陳腐な野望でこんな事態を引き起こすなんて、考えられないけど……」

 するとヴィクトリアは、美しい顔を柔和に歪ませながら、

「ホント、あなたってお父様のことが大好きなのね。なんだか妬けちゃうくらい」

「はあ? なんだいそれ」

「良いのよ。そんなこと、どうでも。それよりも、これからどうしようか? これから役員のみんなに全てを話して、それで対策を立てなければならないのは同じことでしょう? みんな、いい歳をしてかなり不安がっているわ。だって、メンバーの全てがミックスではないにしろ、ヴェルデムンドに渡航歴のある人たちではないのだから」

「ああ、そうだね。この組織の中には、直感的にヒューマンチューニング手術に嫌悪を抱いているだけでなく、ただ自分の身を守りたいから組織に加わっている勢も少なくない。そんな連中にも納得が行く対応をしなければ、やがてこの組織も危うくなってしまう。君には悪いけれど、もともと、こういった思想で動いている集団て言うのは、何か事が起きてしまうと大きく揺るぎやすいのも確かだ」

「それは心得ているつもりよ。伊達に何年間もこの組織の代表を務めているわけではないんだからね」

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