見えない扉③


 元87部隊の両者は、ふたたび呆気にとられた。

 確かに、殺意には様々な種類があるということの意味は分からないではない。だがしかし、それをこのような逼迫ひっぱくした状況で見分けるなど、常人では理解しようがない。

「さすがは背骨折りさまのお弟子さま」

「身共らの計り知れぬお力の持ち主であらせられますね……」

 言われて、小紋も自身がそのようなことに気づけたことを不思議に感じた。

 まだ、羽間正太郎との修練の浅かったころは、その違いになど気付けずにいた。そればかりか、戦いの最中にそんな余裕を持って周囲を分析出来るものではなかった。 

 だが当時、正太郎との一つ一つの会話や、様々な状況を想定した実践訓練を経たことで、いつの間にか彼女は、そういった〝意識〟や〝概念〟を持つようになり、やがてこの数年の間にそれをあるがまま、自然の行為として意識し、定着させて来たのだった。

(そうか。そうだったんだね、羽間さん。これであの時、羽間さんが言っていた意味が分かった気がするよ。答えは、自分で意識して導き出すんだって意味が……)



 その後、三人は無事、地下深くにあるフェイズファイター格納庫にまで辿り着いた。

 そこには、彼女たちに必要なバッテリー送電装置である〝ピンポイント・ブースト〟がふんだんにしつらえてある。

「この装置には、個人IDとパスコードが必要ですけれど」

「そんなものは、身共らには通用しません」

 とばかりに、ものの数秒も経たぬうちにその障壁をクリアし、たっぷりと電力を吸い取ってしまった。

「本来ならここに来るまで、倒した相手から電力を奪うことも出来たので御座いますが」

「そこは、ものの情け。身共らミックスたる者が電力を失えば、死に至るのも事実なもので御座いますから」

 そう言って、美しい笑顔を小紋に投げかける。

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