全世界接近戦㊲


 とは言え、彼女らはこの807自治区に潜入するしか手立てはなかった。

 彼女ら87部隊に残された可動部分のバッテリー残量は、もう3割を切っている。

 これで、もう山二つ向こうの自治区を徒歩で目指せば、途中で電池切れを起こし、本来の人間が持つ生命維持にも支障を来たしてしまう。

 つまりは、それが彼女らの死を意味することなのだ。

「カレンバナさん、シグレバナさん。これから、ここに潜入することになるんだけど、決して無理はしないでね」

「分かっていますわ、鳴子沢さま。身共もシグレバナも、何のためにここまでやって来たか、その意味は理解しているつもりです」

「鳴子沢さまはご存じでしょうが、身共らは、あのヴェルデムンド世界の戦乱の折り、決して行ってはならない禁忌の作戦に、ここにいるカレンバナと共に手を染めてしまいました」

「だからこそ、あの元反乱軍ゲッスンの谷防衛隊の司令官だった島崎中佐が、このような反乱を起こすきっかけを作ってしまったのだと考えております」

「そのような私怨によって、この母なる地球をヴェルデムンドのような弱肉強食の世界に変えてしまおうなんて、傲慢にも程があるというものです」

「それでは、以前に身共らが所属していたヴェルデムンド新政府の考え方と、何ら違いがありません」

「ですから、身共らは鳴子沢さまとともに、こういった暴挙を食い止めねばならないのです」

 二人は、小紋の小さな手を取った。そして誓い合った。

「そうだよね。ここは、僕たちが帰れる場所、地球なんだよね。その場所を、こんな世界にしたままじゃ、いけないんだよね」


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